嫌われた監督/鈴木忠平

 

 

 2004~2011年に落合博満氏の中日ドラゴンズ監督としての軌跡を追った本です。

 

 2010シーズン限りの山田久志監督の辞任を受けての就任だったワケですが、現役時代中日ドラゴンズでのプレーがあったとはいえ、選手時代にドラゴンズで大きな影響力を持つ当時の星野仙一監督との軋轢も噂されたこともあり、就任にはかなり懐疑的な見方もあったようで、コーチ陣や番記者たちの中でもあからさまに敬遠する空気もあったようです。

 

 そんな中でいきなり1年目からほとんど補強を行わずに優勝し、その後も圧倒的な強さで上位の成績を残し続けながらも、どこか受け入れられないところがあったのですが、そのヒリヒリした緊張感がこの本からもビンビンに伝わってきて、500ページ近くの大著であるにも関わらず、一気に読まされます。

 

 そういう緊張感を生むことが強さの一因なのかもしれませんが、現役時代同様周囲を寄せ付けないプロフェッショナリズムを貫き、コーチや選手、フロントにも同様の姿勢を求めたため、中にはついていけずに離脱する人も当然でてきます。

 

 客観的に見ればプロスポーツに関わるモノとして当たり前に態度にも見えますが、どちらかというと仲間意識の高かった中日ドラゴンズの空気とは異質であり、フロントにそういう覚悟がないまま落合氏を迎え、本来であれば招聘した落合氏の意向に従ってバックアップすべきところを、勝っても人気が低下しているといって最後には解任してしまうというのは、本来プロモーションはフロントのミッションであるはずで、監督の責任はないことを考えるとあり得ない対応だったと思わされます。

 

 その後、ドラゴンズは落合氏退任の翌年はその遺産で2位になったモノの、2020年に1度3位になった以外は一度もAクラスがないという体たらくに陥ってしまうワケですが、結局は勝ち続けるための覚悟も無く、ただ落合氏に窮状を何とかしてもらおうとしただけで、都合が悪くなれば放り出すという球団の身勝手な体質が印象に残ります。

 

 ジャイアンツやソフトバンク、ひと頃のライオンズなど、常勝軍団を創るというのはやはりフロント側の覚悟も必要であり、落合氏がそういう覚悟をもった球団で采配を振るっていたらどんなチームを作ったんだろう…という妄想が搔き立てられてしまいました…