世界史の分岐点/橋爪大三郎、佐藤優

 

 

 ”知の怪人”佐藤優さんと社会学界の重鎮橋爪大三郎さんという異色の組合せの対談本です。

 

 佐藤さんというと対談本の出版が多く、その中でも豊富な教養で対談相手を圧倒することが多いのですが、この本ではあとがきで「本書で第1ヴァイオリンを弾いているのは橋爪大三郎先生だ。」とおっしゃられているように、一歩引いてというワケでもないのかも知れませんが、対談の端々で橋爪さんの豊かな教養への敬意が伺える場面が多く、以前紹介した同じ社会学者である大澤真幸さんとの対談本である『ふしぎなキリスト教』では身内同士というか、同じ世界の碩学への敬意といった程度にしか感じなかったのですが、”知の怪人”佐藤優を向こうに回し、圧倒的な教養を披歴されています。

 

 この本では過去のことを語るのではなく、世界史の展開を踏まえて現在起こりつつある、後の世から見れば転換点になると思われる事象について、経済、科学技術、軍事、文明という4つの分野を取り上げられています。

 

 この対談の時点ではロシアのウクライナ侵攻は影も形も無かった時期なのですが、中国の台頭を受けてのアメリカの地位の相対的な低下の影響があらゆる場面に現れており、その流れというのはロシアのウクライナ侵攻を受けても、そう大きな変化は無さそうで、経済的にも軍事的にも中国のプレゼンスというのは、一般的な日本人が考えているよりも相当大きなモノだと考えた方がよさそうです。

 

 個人的に一番興味深かったのが科学技術についてのパートで、ロシアのウクライナ侵攻でよりクローズアップされているエネルギー政策について語られているのですが、究極のエネルギーとしての核融合技術の実用化が、今後の主導権争いのカギになるということのようです。

 

 それにしてもやはり印象的なのが橋爪さんの圧倒的かつ体系的な教養で、社会学者なんて何の役に立つのかよくわからない学問だと思っていましたが、少なくとも橋爪さんについては、思想家的な側面も含めて偉大な存在であることを認識した次第です。