人新世の「資本論」/斎藤幸平

 

 

 ”知の怪人”佐藤優さんが激賞しておられたので気になっていたのですが、新進気鋭の哲学者である斎藤幸平さんの話題の書を手に取ってみました。

 

 ”哲学者”の著書ということで難解かと危惧していたのですが、現代の資本主義の問題の解決の手掛かりを

 

 「人新世」というのは、ノーベル化学賞受賞のクルッツエンが、人間の活動が地球を蝕んだ年代ということで名付けた地質学上の概念だということなのですが、化石燃料の蚕食を始めとして、産業革命以降の資本主義の進展により地球環境を食い尽くしてきた結果、様々な異常気象を引き起こしており、最早抜本的な対策をしなければ環境破壊が後戻りのできないレベルにまで達しているということで、コロナ禍の世界的な蔓延もそういう現象の一端に位置づけられるということです。

 

 そんな中で資本主義が持つ無限の拡大志向への歯止めをかける必要があるワケですが、昨今佐藤優さんを始めとする知識人が資本主義の閉塞感に対する処方箋をマルクスの『資本論』に求めることを提唱される流れがありますが、この本では資本主義の拡大主義を抑制し、環境保全をするための処方箋も『資本論』に求められることを語られています。

 

 基本的に資本主義が究極に拡大したカタチがグローバリズムであり、このまま世界中の人々が欲望の赴くままに経済規模を拡大して行くと地球環境の破滅を招くということで、斎藤さんが提唱されている「脱成長コミュニズム」として、

 1.使用価値経済への転換

 2.労働時間の短縮

 3.画一的な分業の廃止

 4.生産過程の民主化

 5.エッセンシャル・ワークの重視

という概念を提唱されていて、コロナ後の世界で提唱される概念とも重なり合う所が見られるのが印象的で、アフターコロナを契機に斎藤さんの提唱する概念が浸透していくのではないかという期待が持てます。

 

 それにしても、あの時点で資本主義の拡大至上主義の限界を見通していたマルクスの慧眼もさることながら、おそらくそこまでは書かれていなかったであろう『資本論』からこういう概念を抽出する齋藤さんの洞察力もスゴいんだろうなぁ…と言う気がします。