朝鮮半島という災厄/ケント・ギルバート、遠藤誉、高永喆ほか

 

 

 トランプ大統領在任時で、文在寅大統領就任直後という時期だった2017年に出版された朝鮮半島情勢に関する本です。

 

 その後、文在寅大統領が積極的に北朝鮮との融和を図り、トランプ大統領金正恩の会談が行われるなど、北朝鮮との接近が顕著になりつつある時期でしたが、そういう状況について、韓国、北朝鮮の情勢のみならず、朝鮮半島に大きな影響を及ぼす中国やロシアからの観点、北朝鮮の軍事的な観点も含めて多角的に捉えた興味深い内容となっています。

 

 しかも執筆陣が、あからさまな嫌韓本のライターが避けられていて(ケント・ギルバート氏が該当するといえるかもしれませんが…)、韓国情勢について”知の怪人”佐藤優さんとの対談本もある高永喆、中国情勢に造詣の深い遠藤誉さん、ウクライナ侵攻時にロシアから出禁を食らったことでも知られる中村逸郎さん、朝鮮半島情勢のトピックでメディアにもよく登場する辺真一さんなど豪華版です。

 

 驚いたのが中国との関係性で、中国側からのお目付け役的な位置づけもあった重鎮張成沢の粛清もあって習近平自身がかなり金正恩に不信感を抱いていて、金正男金正男の長男である金ハンソルを保護しているのは中国だということで、実は北朝鮮の後ろ盾となっているのは今や中国よりもロシアだということで、中国は金正恩を持て余しているということです。

 

 元々歴史的に、中国の政権は決して朝鮮半島を制圧しようとしなかったのが、歴代の政権が朝鮮半島の国家を支配するのはかなり厄介で、実際に支配した政権がほどなく崩壊の憂き目にあっているという反省を受けて、唐代以降は支配はせずに従属させていたという知恵が働いていたのに対し、日本は大陸に出る唯一の窓口という意識があったのか、朝鮮半島を制圧してしまったが故に、末代に渡る厄介を抱えてしまったという指摘が興味深いところです。

 

 国というのは引っ越しができないだけに、もっと利口に立ち回らないと手痛いしっぺ返しを食らうということを我々はキモに銘じておくべきだということがよく理解できるモノでした。