2022年10月出版の橘玲さんの新刊です。
『マネーロンダリング』でのデビュー以降、世の中の不条理みたいなモノが橘さんの主要な執筆テーマだったと思うのですが、2016年出版の『言ってはいけない』の大ヒット以降、不安定な日本の世相が求めるのか、そういったテーマでの出版が続いており、この本もそういった主旨での一冊と言えそうです。
特にコロナ禍以降、人々が目の前の損得に目の色を変えるような傾向が高まっているようにも思え、そういう志向がより不条理の歪みを大きくしているようです。
タイトルとなっている「バカと無知」と言うテーマについては、「バカは自分がバカであることに気づかない」というなかなか辛辣なテーマについて語っておられて、ひょっとして自分も…なんて考えさせられてしまいます。
個人的に印象的だったのが「やっかいな自尊心」という章で取り上げられている自尊心に関する一連の著作で、特に日本人は自尊心の低さが問題となるのですが、ステレオタイプではやたら自尊心が高そうなアメリカ人も、実はそうではなさそうで、ホメて育てられて、実力と比べてやたらと自尊心が高くなってしまった人たちが、結局大したことがないとバレて誰にも相手にされなくなったといった悲劇も紹介されていて、自尊心は高すぎても低すぎても多くの問題を引き起こすようです。
また、アメリカで過去の記憶で自分の父親から性的虐待を受けたという告発をして、告発者の記憶だけを元に処罰されるケースが続発したそうなのですが、その事件を受けて、実は人間の記憶というのは自分の都合のいいように書き換えられてしまって、実は事実を反映していないという実証の結果を紹介されています。
結局人間というのは、ベースは自己チューで、自分も周囲もそうなんだということを意識しておくことが様々なトラブルを避けるためのヒントなのかも知れません。