伊藤忠商事の伝説の名経営者として名を馳せ、駐中国大使も務められた丹羽宇一郎さんが語る習近平政権の中国です。
元々この本は2018年に出版された『習近平の大問題』という本を2022年に文庫化して出版する際に大幅に加筆修正したモノだということですが、大半の日本人が抱く習近平および近年の中国像とは一線を画したモノとなっております。
丹羽さんは中国大使在任中に何度も習近平に会って会話も交わされているということで、そこからの印象と昨今の日本で取りざたされる習近平の強権的な姿勢とはかなりのギャップがあると指摘しておられ、そういう「ギャップ」の要因として、アメリカが過度に中国に対して警戒論を強調していて、日本のメディアがその強い影響下にあるからだとおっしゃいます。
昨今日本で中国の台湾侵攻が喫緊の危機にあるような論調も見られますが、そんなことをマジメに議論しているのはアメリカと日本だけだとおっしゃっておられ、どう考えてもペイするとは思えないことを、どちらかと言えば、慎重なところのある習近平が許すはずがないということです。
また、中国は今なお民主化に向けたプロセスの中にあると考えておられるということで、そのプロセスが西欧諸国が民主的な政体を手にした際のモノや、かつての東欧諸国が共産主義から資本主義へと移行していった際のモノとあまりに異なるので、未だ強権的な姿勢が続いていると受け止められているだけで、14億もの人口があり多数の少数民族を抱える国家なりの移行プロセスという人類史上例のない「社会実験」の過程の中にあり、いずれはアメリカのような連邦制に移行するのではないかとされています。
にわかには信じがたいというか、受け入れがたいところもあるのですが、それでも昨今の日本での中国に関する報道は、あまりに反中に寄ったモノだなぁ、という印象がありましたし、中国のバブル崩壊論なんて、間もなくハジけるといいながら数十年前からずっと手を変え品を変え出てきている「オオカミ少年」的なモノになっているということもあり、普段我々が接している中国に関する論調に一定の「偏り」があるに違いないということを思い起こすにはいい機会だったかもしれません。