まあまあ久々に磯田センセイの本ですが、今回は古文書に寄り過ぎたところもなく、歴史における事象のカラクリというか秘められた原因みたいなモノをいろいろと語られていて、なかなか興味深いところとなっています。
例えば、なぜ戊辰戦争において、大いに兵の数が少ない薩長側が幕府軍に勝てたのかということについて、指揮をとっていた大村益次郎が、幕府軍の戦い方が戦国時代の機動性の低い戦い方をしていたので、機動性に勝る長州の兵が翻弄する作戦をとったということらしく、戦国最強と言われた「井伊の赤備え」がその鈍重さ故に足を引っ張ったという側面があったようです。
また、東海地方から3人の天下人が出たことについて、東海地方では早めに兵農分離ができたことで、田植えや稲刈りの時期を気にせずに遠征ができたことがその要因だとされているのもナットクです。
後半の章で、歴史の専門家としての司馬遼太郎さんの著作の「読み解き」をされているのが非常に興味深いところで、司馬さんのような史料をみっちり読み込んだ史伝文学というジャンルが司馬さん亡き今、絶滅の危機に瀕していることを嘆かれています。
司馬さんは、歴史の専門から見てもやはりかなり史料を丹念に作品に反映させていることがわかるということですが、逆に文学としての情景描写を優先するために、多分史実ではこうであろうというところを敢えて無視しているところも散見されるということで、そのさじ加減が絶妙なんだということです。
何か、この本では磯田さんの「史観」みたいなモノが垣間見れて、時折こういった作風の本を期待したいところです。