百まで生きる覚悟/春日キスヨ

 

百まで生きる覚悟 超長寿時代の「身じまい」の作法 (光文社新書)

百まで生きる覚悟 超長寿時代の「身じまい」の作法 (光文社新書)

 

 

 “人生100年時代”と言われるようになった超長寿時代になった現代における「身じまい」の在り方を紹介された本です。

 昨今は90歳代になってもかなり元気に過ごされている方が多くおられて、かなり健康の自身のある方も少なからずいらっしゃるということなのですが、その“元気”が“過信”につながっていることも多いということです。

 確かに健康に配慮されて元気に過ごされる方はいらっしゃるのですが、一旦大ケガをされたり、近親者の逝去があったりすると、坂道を転げ落ちるように寝たきりになってそのまま死に至るということも多いということです。

 ただ元気なあいだは「身じまい」に向けた準備に取組まれる方は、“元気”が“過信”になり「まだまだ大丈夫!」と先延ばしにしてしまうということです。

 現代では多くの人が「子供には迷惑をかけたくない」と言いながら、「誰かが何とかしてくれるだろう」という相反するキモチもあり、結局何も準備をしないまま寝たきりになり、軋轢になるといったケースもあるということで、元気なうちにある程度の準備をして言うことを勧められています。

 ワタクシ自身、50代に差し掛かったばかりなんで、まだまだだと思っていますが、昨年ガンにかかりながらも、超初期で事なきを得たら、まだまだ…と思っておりますが、ある程度そういう想定をしとかないといけないのかも知れませんね!?

 

お金のために働く必要がなくなったら何をしますか?/エノ・シュミット、山森亮、堅田香緒里、山口純

 

お金のために働く必要がなくなったら、何をしますか? (光文社新書)

お金のために働く必要がなくなったら、何をしますか? (光文社新書)

 

 

 本格的なAI時代が視野に入ってきて、多くの人が仕事を失うかもしれないという可能性が出てきたことと併せて日本でも取り沙汰さえるようになった「ベーシックインカム」をメインテーマにした本です。

 少し前にヨメにベーシックインカムの話をした時に、かつて旧来の日本を代表する大企業に勤務していた彼女は、その概念を感覚的に理解できなかったようで、多くの日本人にとっては「働かざる者食うべからず」という概念がホネの髄まで浸み込んでいて、働かずしてカネを得るということに罪悪感や嫌悪感を感じるところがあるようで、生活保護を受けている人を白眼視する向きすらあるようです。

 ただ、日本国憲法生存権の保障という意味では、そういった制度を視野に入れておく必要がありそうだということで、ヨーロッパ諸国では既に実証実験に取り組んでいる国も少なからずあるということです。

 そういう制度面もさることながら、ベーシックインカムが導入されて、どう人生が変わるかということなのですが、まず多くの人が憂慮している「誰も働かなるんじゃないか!?」という危惧については、実証実験の結果でそういった状況はほとんど生まれていないということで、“労働”というのは、人間の本質的な欲求に基づいているらしいというところが意外でした。

 ということで“食うために働く”状況と比較して、ギスギスした感じが軽減される傾向があるということで、より本質的な幸福につながる可能性が高いようです。

 それにしても、結構現実的に来る可能性の高い世の中のハナシなんですが、ちょっとしたユートピア的なハナシをされているようなフワフワした感じを受けるワタクシも、旧来的な思考から抜けきれないようです…

 

患者の心がけ/酒向正春

 

患者の心がけ 早く治る人は何が違う? (光文社新書)

患者の心がけ 早く治る人は何が違う? (光文社新書)

 

 

 脳外科医リハビリ医に転向された方が、病気が早く治るための患者としての考え方を紹介されます。

 医者が語る“患者の心がけ”なんていうと、医者の言うことをキッチリ守っとけばいいのだ!みたいな説教をされるのかと思いきや、医者から患者への一方通行のコミュニケーションでは不十分なんだそうです。

 そもそも多くの患者は大きな病気をすると、その症状を解消することだけに意識が行ってしまいがちですが、実は元通りの生活に戻るためには、そのあとのリハビリが同等以上に重要で、そこがウマく行かないと、病気は一旦治ったけど寝たきりになった、みたいなことになりかねないようです。

 そういう術後の全身管理みたいなモノの重要性がこの本の主要テーマなのですが、そこで一番重要なのが患者と医者双方の信頼関係で、医者は何とかして患者に元通りの生活戻ってもらえるように、という姿勢で治療に臨むことが必要で、患者の方も積極的によくなろうという姿勢が必要で、双方がかみ合ってはじめて順調な治療となるようです。

 そんな中でちゃんと患者の意思を汲み取れるような“仕組み”が必要だということで、多くの患者(ひょっとしたら医者も!?)気付いていない盲点を紹介された内容で、かなり参考になるのではないかと思います。

 

 

子育てに効くマインドフルネス/山口創

 

子育てに効くマインドフルネス 親が変わり、子どもも変わる (光文社新書)

子育てに効くマインドフルネス 親が変わり、子どもも変わる (光文社新書)

 

 

 児童心理なんかも研究されている方が、マインドフルネスが子育てに及ぼす影響について紹介された本です。

 マインドフルネスというのは、「今、ここで起きていることに注意を向け、さらにそれに対して評価を加えずに受け入れる状態」なんだということなのですが、そういった心理的な状態で子育てに取組むことが、子育てをする親にとっても、育てられる子にとってもプラスの影響を及ぼすことを紹介されております。

 親にとっては、目の前の子育てに集中することで、余計な悩みを抱えなくて済み、ストレスが軽減されるということと、それに伴う余計な叱責をコドモにしなくてて済んで、その分の自己嫌悪に陥らずに済むということです。

 逆に子供にとっては、愛情をダイレクトに受けることができて、その分情緒が安定して、コドモ自身も親の集中する姿勢に影響を受けて、集中力が向上するということです。

 何かいいこと尽くしですが、こういう方法論の具体的なノウハウがみんなに行き届けばいいのに!?

 

ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか/熊谷徹

 

 

 以前『ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか』を紹介した熊谷さんの著書ですが、どうやらコチラの方が先に出版されたモノのようですね…

 ということでコチラの方が背景説明が概観的で解り易くなっているような気がします。

 どちらにも共通していますが、ドイツ人が自分の人生を如何にして充実させるかという本来的な目的をいつも忘れることなく念頭に置いた上で生活されているということで、仕事のために家庭を破壊するような本末転倒の生活を送ってしまいがちな日本人とは真逆なライフスタイルのように見えます。

 そうやって人生が充実しているからこそ、生産性も上がるんでしょうし、「働き方改革」といってもこういったマインド的な部分を変えていかないと、なかなか本質的な改革にはつながらないんじゃないかという気がします。

 まあ、自分の人生を優先するあまりサービス業のクオリティが低くなってしまっていることはご愛嬌ですが、日本人がやり過ぎってとこも無きにしも非ずなんでねぇ…

 

仕事選びのアートとサイエンス/山口周

 

仕事選びのアートとサイエンス (光文社新書)

仕事選びのアートとサイエンス (光文社新書)

 

 

 先日『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書)』に唸らされた山口さんですが、その成功を受けてか、2012年出版の『天職は寝て待て』という本が、二匹目のドジョウ狙い的なタイトルに改題して再出版ということのようです。

 で、結論から言うとあまり“アート”直接関係無いのですが、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』で取り上げられていたような“美意識”を前面には出さないものの考え方のベースとなっていることが伺えます。

 で、旧題にある通り、この本の主題は“転職”なんですが、冒頭で従来の“転職”本が、転職するにおいての動機や、どういう風に志望を固めていくのかと言う、実は一番大事な、“天職”を選び取るというプロセスをすっ飛ばして、技術論的なところに終始することに苦言を呈されていて、どうやれば自分がシアワセになれる仕事を選び取れるかということについて紹介されます。

 この本を読んでいると『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』で山口さんがロジカル一辺倒でコトを進めて行くことの弊害を指摘されているのが、山口さん自身が広告会社からコンサルティングファームに転職し、徹底的にロジカルにモノを突き詰める経験があればこそ、その弊害を指摘できたんだな、ということが逆説的に理解できます。

 そういう意味で転職を決意するところから、転職先で成果を出し始めるまでの、ありがちなココロの動きに沿った、留意しておくべき事項が整理されていて、あまりガチガチの実用書的なニオイは少なく抒情的でありながらも、転職で悩んでいる人にとっては、不思議な満足感を得られるんじゃないかと思える本でした。

 

教育激変/池上彰、佐藤優

 

 

 池上さんと佐藤さんの対談本ですが、今回のテーマは2020年の学習指導要領改訂に伴う教育への影響です。

 最近お二方とも教育関連のトピックへの関心が強いようで、そちらの分野での著書も次々と出版されていますし、大学での指導もされているということで、かなりディープな話を期待したのですが、結論から言うといつものお二方への期待値からすると多少肩透かし感が否めない気がします。

 とは言っても、これだけを読めば十分に深い内容で、お二方のこれまでのこの分野での本を何冊か読んでいるから“どこかで見た”感からそういう風に感じてしまうだけということです。

 オウム真理教テロリズム以降、日本の高等教育がもたらす歪みが指摘され続けていますが、高級官僚のモラルハザードや若手議員の暴走など、国の行く末を担うべき人材があらぬ方向へ行ってしまっているということで、その弊害は無視できないモノとなっているようです。

 そういう意味で佐藤さんが再三おっしゃっているように大学入試の改革によって、日本の教育全体の構造改革につながるということで、大学にゅしにおける思考力重視の改革のアウトラインが明確になり、パイロット版のテスト内容についてもお二方とも一定の評価をされているようですが、何かお二方のいつもはあまり見られない奥歯にモノの挟まったような感じが気になります。

 最後に大学入試センターの理事長を迎えての三者での対談となり、お二方がつるし上げをするのか!?と秘かに期待したりもするのですが、あくまでもオトナなお二方ということで、思ったよりも無難な内容で終始しています。

 まあ、ワタクシが勝手にハードルを上げすぎちゃいましたかね…