ポピュリズム/薬師院仁志

 

 

 アメリカの大統領選でのトランプ氏の当選、イギリスのEU離脱に関する国民投票における、いわゆるBrExit、フランス大統領選における極右候補の大躍進など、民主主義が成熟している先進諸国における、国の行く末を左右するような判断において、ポピュリズムが作用している状況がうかがえます。

 そういった状況についての本なのですが、正直ベースでいうとハズレ本です。

 元々、民主主義と言うのは昨今のポピュリズム的な現象が起こるリスクがあるのは理解しているワケですが、この本ではそういうことと、昨年の現象面をなぞるだけで、歴史的意義の検証みたいなところがあまり見られません。

 加えて、やたらと橋下元大阪市長のことについて取り上げられてて、確かに彼もポピュリズム的な色合いが濃かったのは否定しませんが、やたらと取り上げるなぁ、と思ってたら、どうやら私怨があるらしく、最終章ではストレートに毒を吐きまくります。

 こういう公私混同的な本を、別のテーマで出すのは勘弁して欲しいものです…全く時間のムダでした。

 

 

損する結婚儲かる離婚/藤沢数希

 

損する結婚 儲かる離婚 (新潮新書)

損する結婚 儲かる離婚 (新潮新書)

 

 

 理論物理学者から外資系金融機関での勤務を経て作家になられたという異色の経歴の方が、結婚や離婚の損得勘定の観点から語られます。

 よく有名人が離婚をする際に慰謝料の金額なんかが取り沙汰されますが、あの“慰謝料”というコトバは厳密に言うと間違った使われ方であることが多いようです。

 例えば、浮気など離婚の原因を作っていながら“慰謝料”を受け取るということに違和感を持たれた方もいらっしゃると思いますが、離婚の際にやり取りされる金額のうち、本来的な意味での慰謝料の占める部分は実はごくわずかで、婚姻費用や財産分与が占める割合が大きく、婚姻中の収入は共同生活の中でもたらされたもので、その結果蓄積された財産への貢献度は半々だということで、離婚時にはその分を引き渡すことになっているので、稼ぎのよい著名人が支払う“慰謝料”は巨額なモノになるということのようです。

 最悪、ロクに働きもしないダンナに愛想を尽かして離婚する女性が、ダンナの方が有責であるにもかかわらず、奥さんが“慰謝料”を支払わなければならないというケースも少なからずあるようです。

 このあたりの矛盾は明治時代に制定された民法が未だに効力を持っているからということもあるようで、市民感覚に合った法制度とするためにも、早晩改正をすべきだと指摘されています。

 これから結婚をしようとする人、特に女性にとっては、離婚のことを想定するっていうのもナンですし、女性として不快に思える記述も少なからずありますが、知っておいた方がいいことが多く書かれていますので、一読の程を!

 

人間この信じやすきもの/T.ギロビッチ

 

人間この信じやすきもの―迷信・誤信はどうして生まれるか (認知科学選書)

人間この信じやすきもの―迷信・誤信はどうして生まれるか (認知科学選書)

 

 

 この本は人間の認知の歪みというものをメインテーマとした本で、どういうメカニズムでそういう“歪み”が起こるのか、ということについてパターンごとに多くの事例を通して紹介されています。

 “歪み”と行ってしまうと、身構えてしまう人もいらっしゃるかもしれませんが、人間の認知の機能上、ある程度やむを得ないところがあるようで、我々は“認知”を行うにあたって、知識だったり経験だったり“常識”と言われるものであったり、そういうフィルターを通しており、時には明らかに目の前で起きている事実よりも、それらのフィルターの方が協力に“認知”に作用してしまい、目の前の“事実”と真逆の認識をしてしまうことすらあるようです。

 ということで、そういうことを避ける方法論というモノも紹介されていますが、突き詰めて言えば、そういう“認知”のメカニズムを理解した上で、自分が捉われているモノを意識しておくしかないようですが…

 

新しい自分に目覚める4つの質問/バイロン・ケイティ

 

新しい自分に目覚める4つの質問―――ストレスや苦しみから自由になれる「問いかけ」の力

新しい自分に目覚める4つの質問―――ストレスや苦しみから自由になれる「問いかけ」の力

 

 

 先日『探すのをやめたとき愛は見つかる―人生を美しく変える四つの質問』を紹介したケイティさんの著書なんですが、ワークと、ケイティさん自身にカウンセリングを受けているような構成、しかもテーマの分野分けも、あまりにも『探すのをやめたとき愛は見つかる―人生を美しく変える四つの質問』と似通っていて、タイトルが変更になっただけなのかと、本気で探した位です。

 まあ、ワークをやりこんで、自分と引き比べるネタを多く確保したい人は両方読んでもいいかもしれませんが…

 

「教養」を最強の武器にする読書術/樋口裕一

 

「教養」を最強の武器にする読書術

「教養」を最強の武器にする読書術

 

 

 以前「知の巨人」立花隆さんが「知の怪人」佐藤優さんとの対談本で、最近は教養身に付けるためにどんな本を読めばいいかと尋ねてくる学生がいる、といった趣旨のことをおっしゃっていて、教養を手っ取り早く身に付けようとする風潮があることを嘆いておられて、佐藤さんもそれに同意されていましたが、そこで切り捨てられた学生さん、こんな本がありますよ!

 まあ教養を身に付けるために読書が不可欠だということをアタマから否定する人はそんなにいないと思いますが、全然読書の習慣の無い人に、立花さんのような切り捨て方をしていまうと、「教養」の入り口で拒絶されたような気になる向きもあるでしょうから、こういう本のによる救済も意義があるのかもしれません。

 この本では文学や実用書などをバランスよく読むことをススメられていて、かつ年代別の「読み方」にも触れられていて、オジさんたちも救済してもらえます。

 実用書の方では12のジャンルごとに樋口さんのおススメが紹介されていて、それを読めばノンフィクションの部分を一通りカバーできるということで、さらに興味がわいた分野について深堀していくことを推奨されています。

 文学の方では「らくらく読み⇔じっくり読み」「人間模様⇔思想」の2軸で作家を分類し、それぞれの象限の本をどうやってカバーするかについても紹介されています。

 そんな中であんまり本を読む習慣がない人が本を読むときに1つだけ留意しておくべきだということで紹介されているのが「国語」的な読み方をしないということだそうで、ムリヤリ何らかの「教訓」を絞り出そうとするのではなくて、自分がどう感じるか、ということだけに集中すればよいということで、それで随分と気がラクになる人もいらっしゃるかもしれませんね。

 

日本のマラソンはなぜダメになったのか/折山淑美

 

 

 日本の男子マラソンでは2002年の高岡選手以来、15年以上にわたって日本記録が更新されていないのですが、その間に世界記録は2時間2分台を伺うようになっており、かつて世界をリードした日本のマラソン界は世界の潮流から取り残されて久しい状態です。

 そんな中でかつて日本記録保持者だった7人のランナーの、ご自身の取組と彼らから見た現在のトップランナー達の取組がどう見えるかについて語られます。

 よく言われるのが「練習が足りない」ということで、この本で取り上げられている方たちにも、それを挙げられる方もいらっしゃるのですが、世界トップクラスのマラソンランナーと比較してスピード面でのビハインドに着目して、スピード練習を重視するランナーが多くなり、練習での走行距離の減少傾向は強まっているようです。

 それでもスピードを重視した練習のはずが15年前の日本記録に遠く及んでない現実は無視すべきでない処だといえます。

 この本の中で、トップの才能を持つ選手が、公務員ランナーとして名高い川内選手のような泥臭い練習を積めば世界に伍して行けるのかも…とおっしゃっている方がいましたが、最近のトップランナーはキレイに練習をしようとする選手が多いようで、そういうキモチの部分にも原因があるのかもしれません。

 いずれにせよ、こういうオッサンたちを黙らせるような“結果”が欲しいものですよね!?

 

秘密とウソと報道/日垣隆

 

秘密とウソと報道 (幻冬舎新書)

秘密とウソと報道 (幻冬舎新書)

 

 

 ものすごく久しぶりに日垣さんの本なのですが、先日紹介した『ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す これからのソーシャルメディア航海術 (PHPビジネス新書)』の中で引用されていたので手に取ってみました。

 日垣さん得意の緻密かつ執拗な取材に基づく告発モノなのですが、今回のターゲットはジャーナリストです。

 ジャーナリスト特に大手のメディアに勤務している人たちは、自分たちの取材について「知る権利」だとか「取材源の秘匿」」などといった感じで、殊更正義感を前面に押し出すシーンが目に付くんですが、こんなにヒドイ取材をしながらそれを言うか!?という事例を紹介されています。

 取材に応じてくれた遺族の好意を踏みにじって故人の写真を盗むといった事例が可愛く思える程に、取材源を犯罪者として陥れてしまうようなことをしながら「取材源の秘匿」をタテに、不法な取材を覆い隠そうとするヤツまでいて…呆れ果てて言うべきことが思いつきません。

 最近では権力者との密接な関係がささやかれるメディアも少なからずあり、最早信頼すべき情報源ではないのかも知れませんね…(ちなみにこの本の出版は2009年です。)