出版・新聞絶望未来/山田順

 

出版・新聞絶望未来

出版・新聞絶望未来

 

 

 池上さんと津田さんの対談本の『テレビ・新聞・ネットを読む技術』で推薦図書として挙げられていたので手に取ってみました。

 この本は2012年の出版で出版社出身の方が書かれたモノなんですが、何とも救いのないタイトルでまずはそこの驚かされます。

 冒頭から半分過ぎ位のボリュームを費やして電子出版がなかなか普及していかない状況について紹介されているのですが、これはこの本の出版から5年以上経った現在においてもそれほど状況は改善していないことに驚きます。

 さらに紙メディアの方も書籍や新聞など軒並み部数は右肩下がりで、クールジャパンということで国がチカラを入れているはずのマンガですら例外ではないということです。

 ということで新聞社などではネットでの展開を模索しつつあるのですが、記者クラブでの横並びでどこでも代り映えしない紙面の各社とも、有料でのネット購読者を取り込むことができずにいて、こちらも5年後の現在にしてあまり状況は変わっていません。

 そうなると編集力など活字メディアが培ってきた伝えるためのノウハウが廃れていくことを危惧されているのですが、この本の出版以降現在に至るまで根本的なテコ入れはされているようにも思えず、タイトル通り活字メディアは「絶望未来」ということになってしまうのでしょうか…

 

組織の不条理/菊澤研宗

 

組織の不条理 - 日本軍の失敗に学ぶ (中公文庫)

組織の不条理 - 日本軍の失敗に学ぶ (中公文庫)

 

 

 経営学の専門家が経済学の理論を用いて太平洋戦争時の日本軍が犯した様々な“不条理”を検証します。

 このブログでも太平洋戦争時の日本軍の“愚行”のテーマにした本を数多く紹介していて、あまりの行状に気が狂ったとした思えないところも多く、日本軍の研究家たちも戦争という特殊な状況下における心理的な影響に原因を求める説が多数を占めるようです。

 ただこの本では、プリンシパル/エージェント理論やアドバース・セレクションと言った経済学における選択の理論に照らして、ガダルカナルインパールといった“大失敗”を検証してみると、その時点で現地が持っていたヒト・モノ・カネ・情報という戦闘のためのリソースを考えると、かなり合理的な判断の下に作戦を遂行していったと分析できるとのことです。

 ただ、組織としてグランドデザインを持っていなかったとか、彼我の保有戦略の冷静な分析ができていなかったとか、白兵戦などの旧来的な戦術に固執したとか、日露戦争の“成功法則”に固執し続けた日本軍の組織に大きな問題があったが故に、個別の軍隊が“合理的”に戦っても却って“失敗”の度合いを強めてしまったという側面があるようです。

 そもそもなぜ日中戦争だけでも持て余し気味だったにも拘わらず、圧倒的な戦力差のある英米を相手に戦争を始めてしまったのかということについても、英米に石油の補給路を断たれてしまえば、日中戦争すら成り立たなくなってしまうということで突っ走った側面が多いようで、そういう無謀なオペレーションというのは戦争という特殊状況だけで発生するワケではなく、企業経営の中でも幾多の例があるということで、よく知られた例を以って、日本軍の“失敗”との類似を指摘されています。

 つまり組織に“不条理”があれば、戦略を“合理的”に遂行すればするほど、破滅に向かって一直線に突き進む危険性があり、組織デザインの重要性というモノを端的に理解できた気がしました。

 

幸福の「資本論」/橘玲

 

  あの橘さんが「幸福」を正面から論じます。 あの橘さんが「幸福」を正面から論じます。
 いつもの橘さんだと目を背けたくなるような“現実”を圧倒的な情報量と論理展開で直視せざるを得ないようにされる印象があるのですが、この本は橘さんにしては明るいトーンで淡々と、でもいつものように「ロジカル」に幸福を語られます。


 この本での「幸福」の定義づけということで、3つの要素として、
  1.自由

  2.自己実現

  3.共同体=絆

を挙げられていて、それに必要な「資本」として、
  1.金融資産

  2.人的資本

  3.社会資本
を挙げられて、それぞれの「資本」について詳しく紹介されます。

 この3つが揃った「スーパー・ハッピー」という状況が理想ではあるのですが、それぞれの「資本」が並び立たない状況が多いので、基本的にはあり得ないということで、如何にして各資本の多く手にしていくかということですが、結局人間というのは「社会的」存在なので社会資本をそれなりに持っていれば、それなりにシアワセに思えるということのようです。
 ただ、その社会的な位置づけをどう取るかということについて、近年かなり多様化してきているということもあり、自分なりの「幸せ」を考えるのにいいキッカケとなる本なのかもしれません。

 

日本再生は、生産性向上しかない!/デービッド・アトキンソン

 

 

 『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』のアトキンソンさんが日本人の“生産性”について語られます。

 『新・観光立国論』の中で日本の一人当たりGDPが先進国の中で最低レベルだと触れられていたことについて、随分とネガティブなリアクションがあったようで、この本は1冊かけてそのことについて反論されているような感じです。

 どうも日本人は戦後の高度成長期でカン違いをしてしまった人が多いようで、自分たちが優秀だったから、ああいう成果を得ることができたと思っているということですが、あの時期は世界史上まれにみる人口の拡大があったことの恩恵に過ぎないというのは経済成長理論におけるセオリーなんですけどね…

 そういう“カン違い”をしてきた日本人が見て見ぬフリをしてきた“負債”を今のうちに何とかしないと、せっかく日本人が持っているポテンシャルを活かせないまま、このままホントに埋没してしまいかねないことを危惧されています。

 『新・観光立国論』のアトキンソンさんだけに観光面からの例示も多いのですが、なぜこんな決まりができたんだろうという、最早趣旨もよくわからない何十年も前の無意味な決まりに固執したり、やたらと柔軟性に欠ける対応をしたりと、そういうところにしっかりと対応していなかいと「お・も・て・な・し」どころでなくて、そのうち外国人観光客からも見捨てられてしまいますよ、ということのようです。

 ということで、観光に限らずですが、ちゃんと“お客さん”になってくれる人のニーズ・ウォンツにちゃんと応えていくような姿勢がないとグローバル化した経済の中で置いて行かれかねない恐怖を感じさせる本でした。

 

女の機嫌の直し方/黒川伊保子

 

 

 AIの開発者が語る男女の思考の性差に関する本です。

 実はAI開発の黎明期には、研究の対象が“男性脳”だけだったみたいですね、恐ろしいことに…

 男性の方で、よく女性に対して悪気のない、後から考えても悪いと思えないコトバで女性の“地雷”を踏んでしまった経験のある人が少なからずいらっしゃると思います。

 そういう男女の思考のクセの差によって、かなり誤解を生む余地があるワケで、男性の側としては女性の思考の傾向を把握しておくことで“地雷”を踏む確率を下げて行こうというのがこの本の主旨です。

 男性はゴール志向というか、目指すところに向かって逆算しながらプロセスを組み上げていくのに対して、女性は目の前のプロセスを一つ一つ丹念に積み上げていってゴールに近づくというプロセス志向の考え方なんで、ゴールを一直線に目指そうとする男性にからすると一見ムダなプロセスを踏んでいるように思えるのですが、実はその一つ一つのプロセスに込められた意味があるんだということです。

 だからそういう深い意味の込められたプロセスを踏みにじられるということは、女性にとっては耐え難い無神経に当たって、怒りにつながるようです。

 あと、よく言われる女性は“共感”を求めるというところも紹介されているのですが、女性に相談を持ち掛けられたときに、女性自身は特段解決策を求めているワケではなくて、その困っている状況に感じていることを“共感”して欲しいと思っていることが多いということです。

 知らず知らず“地雷”を踏んでしまいがちな男性の方々は、謙虚にこの本を読んで、傾向と対策を学んでください!(笑)

 あ、ただ付け焼き刃で迂闊な“共感”をすると却って“地雷”を踏むことになりかねないそうなんで、取扱いにはくれぐれも気を付けて…

 

 

好きなことだけで生きていく/堀江貴文

 

 以前『本音で生きる 一秒も後悔しない強い生き方 (SB新書)』を紹介した時に「とてもついていけない」と言ったのですが、この本はその続編に当たるようで『本音で生きる』であれだけ好きなことをしていれば、こーんなにも楽しくて成功しやすいのに、ホンの1%位の人しか実行しない…とボヤいておられて、この本はこういう趣旨で書かれる「最後の本」たと宣言されています。

 堀江さんはそういう「好きなこと」で生きていくことを支援するというか、そういう人に“場”を提供することで、そういう生き方を支援する堀江貴文イノベーション・ユニバーシティ(HIU)という“大学”を立ち上げて、この本の執筆当時で1,000人もの人たちが、月1万円の“学費”を支払って参加していて、堀江さんにクドいくらい背中を押してもらって「好きなことだけで生きていく」道に進みつつあるようです。

 堀江さんはこの本の中で「好きなことだけで生きていく」における最大の障害は“小利口”であることだとおっしゃっておられて、そういう“小利口”な人たちは大企業に勤務するとか資産を持つといった“保険”ををかけた生き方を選びがちであることと、日本の学校教育自体がセッセセッセと“小利口”な人材を量産しているので、なかなか堀江さんがおっしゃるような「好きなことだけで生きていく」ことを選択する人は増えていかない
ようです。

 ただ、今後日本が絶え間ないイノベーションを生み出し続けようとするにおいて、一定の割合でそういう人材が増えていかないといけないということも確かなようです。

 ということで、堀江さんがHIUでやられていることがもっともっと成功していって「好きなことだけで生きていく」ことのメリットが明確になって行ってくれればと願ってやみません。

 

クラウドからAIヘ/小林雅一

 

 

 ここ1,2年で急激にAIの注目度が上がってきましたが、この本は2013年に出版された本で「クラウドからAI」というITの「主役」の変遷を示したタイトルに多少の古さを感じさせるのを除けば、現在のAIの台頭を的確に紹介されていて、全く古さを感じさせない内容になっています。

 あまりITに縁の薄い人からすると、AIは最近出てきた概念のように思えるかも知れませんが、AIの考え方自体とその実現に向けた取組はコンピュータの黎明期からすでに始まっており、ここ数年のビッグデータ技術の進展で、ようやく長年考えられてきたコンセプトを実現できるだけの条件が整って、急激に一般的な注目を集めるようになったということです。

 コンピュータの世界では、あくまでも人間がコンピュータに「入力」した情報の範囲でしか処理ができなかったモノが、ビッグデータ技術の進展で「ディープラーニング」というコンピュータ自らが「学ぶ」ことができるようになったことが急激なAIの実用化の最大の要因のようです。

 そういったAIの実現に向けた歴史とともに、代表的な活用の方向性として、最近話題の自動運転について多くの紙面が割かれています。

 まだまだ自動運転なんて先のことだと思われている方も多いと思いますが、技術面でいうと、この本の書かれた2013年当時においても、完全自動運転まであと一歩のところまで来ており、実際の交通での実証実験の蓄積や法整備が追い付いてくれば、早晩実用レベルに到達するまでの成熟を見せているということです。

 さらにAIがもたらす明暗両面の影響についても語られていますが、筆者曰く1990年代のIT革命、インターネット革命を超えて、18,19世紀の産業革命を超えるインパクトをもたらすポテンシャルを持つ「AI革命」について、手っ取り早くかつディープに学べる、大変よい本でした。