官報複合体/牧野洋

 

官報複合体 権力と一体化する新聞の大罪

官報複合体 権力と一体化する新聞の大罪

 

 

 元日経の記者で、アメリカをベースにフリーのジャーナリストとして活躍されている方の日米の新聞を中心としたメディアの比較論です。

 牧野さんによると日米のメディアの最大の違いは、アメリカのメディアは市民の視点での報道を重視するのに対し、日本のメディアは権力側の視点での報道が目に付くということです。

 元々メディアと言うのは、「第四の権力」と言われることもあるように、放置していれば都合の悪いことを隠して国民の権利を侵害しようとする誘引の働く“権力”に対して、それを監視して国民の権利を侵害しようとする動きを監視して警告を発することで民主主義を補完するという役割があったはずで、アメリカのメディアは、そういう“本来的”な役割に忠実であろうとすることが正義であると考えているようです。

 それに対して日本では、安倍政権のメディア統制が話題になりましたが、それも今に始まったことではなくて、牧野さんに言わせると権力側の「プレスリリース」だということで、結局権力からの「リーク」を垂れ流しているに過ぎないとおっしゃいます。

 よく太平洋戦争時の大政翼賛体制において、戦争を防ぐことができなかったメディア人の反省のコメントが取り沙汰されることがありますが、この本を読んでいると、全く反省しているとは思えず、また同じことが起こっても全く不思議じゃないという恐ろしさで戦慄を覚えさせる本です。

 

詐欺師入門/デヴィッド・W・モラー

 

詐欺師入門―騙しの天才たち その華麗なる手口

詐欺師入門―騙しの天才たち その華麗なる手口

 

 

 詐欺師「入門」とありますが、初歩的な話が書かれているワケではなくて、また詐欺師のテクをビジネスに応用するとかそういうこともなく、言ってみれば詐欺師の生態というか典型的な「やり口」をありがちな実例に沿って紹介されています。

 詐欺師というのは犯罪者の中でもかなり高いステータスを誇るようで、相当高いスキルが要求されるようです。

 また役割分担やフォーメーションといったモノもスキなく組み上げられていて、英語で詐欺師のことを“Con Artist”と呼ぶように、アートと言ってもいいようなスキルを駆使されます。

 ヤバい状況になったときのセーフティネットについても、時には警察も含めた人的ネットワークを駆使して致命的なダメージを受けないような対策が練られているようです。

 実際にダマすストーリーを読んでいると、なぜそんなことにダマされる!?と字面レベルでは感じるのですが、それだけ高度な心理的なスキルを駆使しているからなんでしょうね…

 

ビッグデータの正体/ビクター・マイヤー=ショーンベルガー

 

ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える

ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える

 

 

 ビッグデータって言葉は聞いたことがあっても実際どんなものなのかということを正確に説明できる人って少ないんじゃないでしょうか…IT業界にいるワタクシもアヤシイ限りだったりしますが…

 あまり実態のよくわからないビッグデータですがその果たす役割というのはまさに革命的なモノで、先日関連書籍を紹介したAIもビッグデータ技術の実現があって初めて実用レベルになったということもあります。

 ちょっと専門的なことを言うと、ビッグデータが革命的だったのが、これまで如何に正確なデータを入手して、それを正確に処理するかということがITのキモだったのですが、ビッグデータではそれほどデータの正確性を求めないというところがあります。
 
 だから精緻な数値計算を行うという訳にはいかないのですが、大きなトレンドを見るといった意味では非常に大きなチカラを発揮するということがあり、人間が気付くことができなかった法則性を発見するといったことも可能となりました。

 海外の大手スーパーでの分析で、オムツを買う人は同時にビールを買うことが多いということが実証されたという有名な事例がありますが、そこに別に因果関係はないワケですが、多くの実例がそれを示しているということで、因果関係を重視してきたこれまでのITでの処理とは異なり、多くのデータが“結果”を暗示するというところもITにおいて革命的なところがあります。

 いやー、スゴイ世の中になったもんだ…

 

新世紀メディア論/小林弘人

 

新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に

新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に

 

 

 多くのWebメディアの立ち上げにかかわって来られた方が“出版”について語られます。

 著者の小林さんは、新聞や書籍などの従来の印刷メディアとWebメディアについて、どちらも何らかのアイデアを“読者”に伝えるということについて何らの変わりはなく、それら全部を“出版”として捉えて居られて、そういう“出版”するための「通信手段(プロトコル)”が異なるだけの話だとおっしゃっておられて、そこにミョーにナットクしていまいました。

 モチロン、それぞれのメディアの特質を生かした“伝え方”を模索する必要はあるのですが、特段旧来のメディアだから、後発のメディアだけで有利・不利ということは無いんじゃないか、ということをおっしゃいます。

 新規メディアの方は、どういう風に伝えれば受け入れられるのだろうということを考えなければ、そもそもメディア自体の存亡につながるのに対し、旧来型のメディアは、それまでのやり方に固執してしまいがちで、その辺の“伝えよう”という意欲の差が、勢いの差に反映されているのではないか…というのは至極真っ当な指摘に感じます。

 

 

僕たちはこうして仕事を面白くする/NHK「ジセダイ勉強会」編

 

新世代トップランナーの戦いかた 僕たちはこうして仕事を面白くする

新世代トップランナーの戦いかた 僕たちはこうして仕事を面白くする

 

 NHKの若手職員向けにNHK放送センターで開かれていたトークセッションが元となった本です。

 このブログでも数多くの著書を紹介している出口治明さんと共にライフネット生命を立ち上げた岩瀬大輔さんや元プロ陸上選手の為末大さんなど錚々たる面々が自分の仕事への取組みに対して語られているのですが、この手の本って、ただ豪華なメンツに語らせたモノを集めて、結局全体として何が言いたかったの?ってなりがちなことの多い類の企画なんですが、この本は割と方向性がしっかりと各演者に浸透しているようで、かなり太い“軸”を感じさせます。

 あとがきに、それぞれの演者の語られた内容の共通点ということで「問題設定能力」の高さに触れられていますが、ワタクシ個人的には少し違う印象を持っています。

 起業家だけじゃなく企業に勤務する人たちも演者に含まれるので、そうそう好き勝手に仕事を展開できる人たちばかりではないのですが、それでもかなり自分の仕事に取り組むスタンスというのが確立されていて、そういうのがどこから来ているのかというと、「自分の得意・好きなことで勝負する」ことを徹底されているということなのでしょうか…

 そういうと「好きなこと」を如何に“職業”にするかということに腐心することが多いのですが、この本に出てくる人たちは、そういうカタチにこだわるのではなくて、例えば岩瀬さんだったら「誰と仕事をするか?」ということだったり、安藤美冬さんだったら、どうやって仕事をするかという“How”にこだわっていたり…職業や立ち位置に関わらず「自分を出せる」ようにするための“こだわり”ができていて、それを起点にどのように仕事を進めていくのかというデザインができているからこそ、やる気にもなるし成果もでるということのようです。

 よく“自分探し”といいますが、こういうやり方もあるんだということに注目してもらいたいな…と感じさせる本でした。

 

もう一つの「幕末史」/半藤一利

 

 

 

 『昭和史』の半藤さんが「幕末」を語ります。

 半藤さんはお父様の実家が長岡で戦時中に長岡に疎開していたこともあって、司馬遼太郎の『峠』に描かれた幕末の長岡藩家老河合継之助が旧幕府軍側について新政府軍と激戦を繰り広げた長岡城攻防戦が語り継がれている土地柄に影響を受けたということもあって、旧幕府に同情的な史観を展開されます。

 ワタクシ自身も『峠』に傾倒していた時期があって、どちらかというと「薩長史観」に違和感を持っていたこともあって、半藤さんが展開される史観にナットクできるところが多いです。(母方の故郷が鹿児島だというのがフクザツなところなんですが…)

 確かに日本が急激な近代化を成し遂げるには、徳川幕府が政権を握ったままでは難しかったと思いますし、現代の我々もその“革命”成果の恩恵にあずかっていることは間違いないのですが、大政奉還以降に新政府側がやってきたことは、押込み強盗とさして変わりはないというのはもっともだと思いますし“明治維新”なんて美化は、単なる自己正当化の産物に過ぎないというところにもハゲしく同意します。

 歴史は勝者の都合のいいように語られるというのはセオリーではありますが、「知の怪人」佐藤優さんがいろんな側面から歴史を見て見ることが、教養を高めることにつながるとおっしゃっていますが、この本はかなりいい素材になるんじゃないかと思います。

 

最貧困女子/鈴木大介

 

最貧困女子 (幻冬舎新書)

最貧困女子 (幻冬舎新書)

 

 

 先日紹介した橘さんの『幸福の「資本」論―――あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』の中で取り上げられていたので手に取ってみたのですが、想像していた以上に壮絶な世界が紹介されます。

 貧困に陥った結果、セックスワークに従事するしかない女性を中心に紹介されているのですが、その中でもシングルマザーに関するところで、あまりの悲惨さに作者である鈴木さんが20人余り取材したところで、取材から逃げて出してしまったということです。

 これまでも少女売春などの“修羅場”をくぐられてきた鈴木さんをしても、目を背けたくなる“現実”を見るにつけ、とても同じ日本の、しかもほぼ現代(本の出版は2014年)のことを取り扱っているとは思えない程の壮絶さでした。

 橘さんが『幸福の「資本論」』でおっしゃっていた「社会資本」を欠くと、現代においてもここまで悲惨な現実が待っているのかと思うと、戦慄を覚えます。