幻想の経済成長/デイヴィッド・ピリング

 

幻想の経済成長

幻想の経済成長

 

 

 アメリカのフィナンシャル・タイムズ紙勤務で、日本駐在経験もある方が、“幸福”を測る指標としてのGDPについて語られます。

 元々“幸福”を測る指標としては、様々な問題点を指摘されてきたGDPですが、創始者と言われるクズネッツ自身はかなりそこを意識されていたようで、犯罪や戦争でもたらされる経済効果について、人間の“幸福”に寄与しないとして排除しようとされたようなのですが、計上する上での恣意性の排除に問題があるとして、後輩の経済学者であるケインズなどからの批判で、恣意性を除いたカタチでの指標にされてしまったという側面があるようです。

 当初から家事労働の寄与が取り込まれていないなどの問題点があり、経済指標としての不完全性も指摘されてきたGDPですが、技術革新に伴う効率向上がGDPの減退につながるとか、米国の社会保険の不備による医療収入の増大が医療費支出に伴う経済活動によるGDPの増大につながるなど、GDPの増減が人間の“幸福”の逆に作用するといった側面も顕著になってきているということです。

 ということで、GDPが“幸福”を測る尺度としては大きな疑問を差し挟まれながらも、それに代わる指標が出てこないことで生きながらえているということです。

 こういうのも従来の“システム”の限界を痛感させられる気がします…

 

先輩、これからボクたちは、どうやって儲けていけばいいんですか?/川上昌直

 

先輩、これからボクたちは、どうやって儲けていけばいいんですか?

先輩、これからボクたちは、どうやって儲けていけばいいんですか?

 

 

 ビジネスモデルの策定を専門とされるセンセイが、おそらくビジネスモデルの“ビ”の字も知らない若手のビジネスパーソンに、若手の美人モデルを講師にしてレクチャーするといったスタイルをとられた本です。

 最近若手のあまり読書の習慣もない若手のビジネスパーソンに向けて、さして苦も無く読み進めることができる、この手の本はありがちですが、この本はそういった類書とはちょっと一線を画した内容が提示されます。

 と言うのも、従来はマーケティングのある意味“万能論”が繰り広げていた側面があるのですが、実はマーケティングだけでは、如何に利益を得るかと言うマネタイズの部分が不十分で、ターゲットとして商材をアピールすべき対象と、それに対しておカネを払う人を区別して、そういった仕組みを構築することで安定的な収益をもたらすビジネスモデルが構築できるということで、言われてみれば、子ども向けの映画のアピールにより、連れてくるオトナからおカネをもらうという古くて新しいビジネスモデルなんですが、ネット社会において違った枠組みが出てきているということです。

 結構軽くてバカにされかねない構成ですが、かなり深い内容のある本なので、そういった“成果”を引き出せるのも、アナタの教養次第なのかも知れませんよ!?

 

こころの人類学/煎本孝

 

こころの人類学 (ちくま新書)

こころの人類学 (ちくま新書)

 

 

 人類学者の方が世界の各自でのフィールドワークを通じて、「こころ」を語られます。

 あとがきでこの本を書かれた意図について「こころとは何か。そして、人間性の起源はどこにあるのか、さらに、こころは人類の未来を変えることができるのか」という問題意識につかれて、フィールドワークをされたことをまとめられています。

 アラスカやモンゴル、チベットなどでフィールドワークをされた経験を紹介されていますが、かなり原始的な狩猟生活を含めて、自然と共に生きるような生活を送っておられる方と共にされるフィールドワークが中心に紹介されます。

 そういった生活の中では、現代の先進国たる日本で生活している一般的な日本人であれば、普段の生活からは遠い存在となった“死”と隣り合わせの生活が未だ顕著であることが露わになります。

 人間の死に限らず、狩猟における動物の死であったり、葬送が自らの手で行われたりと、一般的な先進国で生活される人であれば、病院に勤務され方を除けば軍人でさえも“死”から隔絶された生活を送っているのを思うにつけ、如何に現代人が自然の生活からかけ離れたところで生活しているのかを思い知らされます。

 それはそれで、不要な感情の揺れから解放されるという意味ではアリなのかも知れませんが、やはり“死”をフィクション的にしてしまうのは、生を受けた立場としては、何かどこか間違っているんじゃないかということを、突き付けられているような気がしました。

 

社会をつくる「物語」の力/木村草太、新城カズマ

 

社会をつくる「物語」の力 学者と作家の創造的対話 (光文社新書)

社会をつくる「物語」の力 学者と作家の創造的対話 (光文社新書)

 

 

 憲法学者の木村さんがSF作家の新城さんという異色の組合せでの対談本です。

 法律とSFって対極に位置するモノであるイメージがありますが、この本を読んでいると意外と接点があるんだなということがわかります。

 と言うのも法律を作るときには、その条文が国民の生活のどのような場面でどのような影響が出てくるのかと言うことを厳密に思い浮かべた上で、詳細の条文を設定するということで、法律家にはそういった「物語」力が実は重要な要件になるということです。

 そんな中で近未来のAIがもたらす変化がどういった影響を及ぼして、その影響に対してどんな規制が必要なのかをシミュレーションされていたりと、なかなか興味深いコラボになっています。

 ただボリュームが400ページ近くもあり、木村さんがハマったという新城さんのRPGの話に深く入って行ったりということで、もっとコンパクトになっていればなぁ…とは思いました。

 

藤井聡太はAIに勝てるか?/松本博文

 

藤井聡太はAIに勝てるか? (光文社新書)

藤井聡太はAIに勝てるか? (光文社新書)

 

 

 AI本なのかなと思って手に取ったのですが、内容の比重は思いっきり将棋の方にあって、どうしようかなと思ったのですが300ページ超のボリュームがあるにも関わらず、意外と面白くてサラッと読了しました。

 佐藤名人とコンピューターソフトが戦う電王戦を中心に、最強の将棋ソフトを決めるトーナメントなど、将棋の世界でのコンピュータの関わりを紹介されますが、今となっては圧倒的にコンピュータの方が強くなってしまって、トップ棋士であってもコンピュータに勝つことはかなり難しくなっているということです。

 そんな中で将棋界の将来を背負う藤井聡太がAIに勝てるのかということがタイトルになっていますが、実際のところは余程藤井さんが想像を絶する成長と遂げなければムズカシイみたいです。

 当初は将棋界でもあまりにコンピュータが強くなり過ぎたら棋士の存在価値が無くなるんじゃないかと危惧する向きもあったようですが、実際にそういう状況になっても、藤井さんの登場もあったからか、棋士棋士で未だにかなりの人気を保っていて、裾野も広がっているようで、楽しみなところです。

 

常勝投資家が予測する日本の未来/玉川陽介

 

常勝投資家が予測する日本の未来 (光文社新書)

常勝投資家が予測する日本の未来 (光文社新書)

 

 

 スタートアップ企業への投資などをされている投資家の方が予測する日本の近未来です。

 以前草食投資隊の一員でひふみ投信を主宰されているファンドマネージャーである藤野英人さんの『もしドラえもんの「ひみつの道具」が実現したら』を読んで、ファンドマネージャーの途方もない未来図を精緻化させて予測する能力に感嘆したのを思い出させたのですが、玉川さんはファンドマネージャーではないものの、プロの投資家にはそういう能力が必要みたいで、玉川さんの語る近未来の日本はかなり興味深い内容になっています。

 前半で場当たり的な数打ちゃ当たる的な銀行のベンチャー投資をビミョーにディスられていたりするのですが、本来この本で紹介されているような未来像を描けるくらいに様々な事象について自分なりのロードマップが描けるようにならないと投資家として成功するのは覚束ないのかも知れません。

 この本は2025年くらいの日本の姿を予想されているのですが、あまりAIのことに触れられていないのは意外でしたが、よくAI関連の本で紹介される未来像に近いモノを提示されます。

 ただこないだ紹介した冨山さんがおっしゃる“G:グローバル”の方にフォーカスされているのですが、これは玉川さんが今後投資対象として考えられているのはソッチなのかも知れません。

 何にせよ、人手がICTに置き換わる流れは顕著で、それにつれて日本の複雑な制度面もシンプルなモノに収れんされて行くと指摘されているのが印象的で、グローバル化はそういった所にまで及んできているんんだなぁと痛感させられます。

 

老舗になる居酒屋/太田和彦

 

老舗になる居酒屋 東京・第三世代の22軒 (光文社新書)

老舗になる居酒屋 東京・第三世代の22軒 (光文社新書)

 

 

 居酒屋評論家として酒飲みの間では著名な太田さんが、今後“老舗”になりそうな比較的店ができてから歴史の浅い居酒屋を紹介されます。

 この方の著者は何回かこのブログでも取り上げているのですが、ワタクシも酒を飲むのは好きでありながら、どっちかというとせんべろ的な嗜好が強いこともあって、割と高級な店を紹介することが多く、ちょっと気取ったところも感じるこの方の著書については、多少否定的なトーンで紹介することが多かったのです、この本ではリーズナブルな店も取り上げておられて、いつもの本に比べると安酒呑みのワタクシにも役に立つところがありそうです。

 ただこの本は“ウマい日本酒を飲ませる”というコンセプトもあって、あんまり積極的に日本酒を飲まないワタクシにとってはやはり違和感があり、かつ日本酒に合うアテということで魚介類が多いのもあり、どちらかというと肉食系のワタクシにとっては、この点でもあまりソソることがありません。

 だったら手に取らなきゃいいのに…というご意見はごもっともなんですが、50代にもなって多少こういう方向性に移行しないといけないのかな、という面もアリ、でもやっぱりコッチはアカンのやなと痛感せざるを得ないのがよくわかりました…