還暦からの人生戦略/佐藤優

 

 

 “知の怪人”佐藤優さんの近刊で、『50代からの人生戦略』の続編とも言える人生指南です。

 

 佐藤さんと人生指南というのは、個人的にはちょっと結びつかない部分はあるのですが、割とプレーンな人生戦略指南で、おカネや人間関係、働くことなど、概ねいわゆる”リタイア本”のお作法通りの内容となっていますが、そこは博識の佐藤さんらしく、ありがちなアドバイスにも、かなりナットク感の高い根拠が示されていて、非常に役立つモノに思えます。

 

 例えば、リタイアした元サラリーマンの孤独について、佐藤さんは人とのつながりである「共同体」は大きく分けて二つのモノがあり、ある目的に沿って作られる「アソシエーション」と地縁や血縁をベースにした「コミュニティ」があるということで、「アソシエーション」たる会社から地元などの「コミュニティ」への移行が必要であるにも関わらず、そういう意識づけがされていないことから「コミュニティ」での人付き合いに失敗してしまうと指摘されていて、例えば「コミュニティ」の一形態である同窓会みたいなところに救いを求めるのも一つの手だとアドバイスされます。

 

 また、多くの人に取って最大の懸案だと思われる老後のおカネについてなのですが、これについては、「いつ死ぬかを予測する」という大胆な提案をされています。

 

 こういう指摘って、日本人にとってはかなり大胆に思えるのですが、敬虔なキリスト教徒である佐藤さんに取って死を意識するというのはある程度自明のことであるそうで、”死”という避けられない現実を起点とするような発想が合理的な志向を生んでいる側面があるのかも知れません。

 

 ただ、あまりに短く想定してしまうとあとで困ることになるので、持病などを勘案してある程度合理的に想定する必要はあるようですが…

 

 あと、佐藤さんらしいのが老後に学ぶ姿勢の部分なんですが、ヒマになったから勉強でもしてみるか!?という姿勢ではあまり長続きしないので、何らかの目的が必要なようですが、そのために学生時代の専攻を学び直してみることを勧められています。

 

 そのココロなんですが、ある程度スムーズに学びに入るということ以外にも、学生時代のことを思い起こすことで精神的にもいい影響があるようです。

 

 佐藤さんご自身も還暦を迎えられたということで、普段の作品とはちょっと趣が違ってウェットな部分の多い本ですが、それだけに近い立場の人たちにとっては共感深いモノになるかも知れません。