賢者の戦略/手嶋龍一、佐藤優

 

 

 一昨日の『動乱のインテリジェンス』、昨日の『知の武装』に引き続き手嶋龍一さんと佐藤優さんのインテリジェンスに関する対談本なのですが、どうもこの3冊で三部作ということを意図されていたようですね。

 

 この本が出版されたのが2014年で、ロシアのクリミア併合があった年だということもあって、そのことについて触れられています。

 

 佐藤さん自身、ロシアにかなりの人脈があるということもあり、手嶋さんは出世作であり、佐藤さんが3部作の中で再三激賞されている日本初のインテリジェンス小説『ウルトラ・ダラー』でウクライナの武器の闇市場を題材とされているだけあって、ロシアのウクライナ侵攻以後にもお二方の対談本を期待していたのですが、この本で触れられていることを見ても、昨今の西欧諸国におけるロシア悪玉・ウクライナ善玉という二元論的な論調が特に強い日本においては、お二方の知見をありのままに提示しても、ミョーなハレーションを起こすだけだという時世が働いているのかな!?という気もしましたが、やはりインテリジェンスの世界は二元論的な勧善懲悪で物事を切り取れるほど単純な世界ではないようです。

 

 この本でも引き続きインテリジェンス・オフィサーの資質みたいなものを語られていて、手嶋さんが佐藤さんにインテリジェンス・オフィサーの究極の資質みたいなものを尋ねられていますが、それは「愛国心」だということです。

 

 結局は愛する国家にありもしない罪をかぶせられた佐藤さんがおっしゃるだけに凄みがありますが、昨日の『知の武装』で触れられていたインテリジェンス・オフィサーに求められる高潔さというモノは「愛国心」に根差すものであり、佐藤さんが国策裁判にかけられた際には、各国のインテリジェンス機関から誘いを受けたということですが、一切断ったというところは、目の前の損得勘定を超えた「愛国心」が重要な資質だということを熟知している佐藤さんならではの身の処し方だったのでしょう。

 

 また、こういった対談本をモノにするキッカケについても触れられており、元々、手嶋さんがNHKのジャーナリスト、佐藤さんが外交官であった時代からお互いを知っていたということですが、利害が対立する場面もあったにも関わらず、佐藤さんが逮捕された際に手嶋さんが異論の論陣を張られたことをキッカケとして知己を得たということのようで、佐藤さんへの国策操作がこのお二方を引き寄せたとなると、それも結果として、国家の利益につながったことになるのかもしれません。