自由旅行ブームを支えたガイドブック『地球の歩き方』シリーズがコロナ禍に伴い、海外旅行の需要がほぼゼロになったことを受けて、日本国内のガイドブックを出版したところ、思わぬ大ヒットとなったのですが、この本はそのシリーズの一環とも言える一冊で、インバウンドの再開を受けて、来日外国人に刺さる日本の魅力を再確認しようという趣旨のモノです。
著者は、マジカルトリップというインバウンド客のガイドをメインに扱う旅行会社を主宰し、ジジババの多い通訳案内士ではなく、資格のない人も含めて若手を積極的にガイドとして育成して活用しようという、通訳案内士であるワタクシとしては多少メイワクな部分も無きにしも非ずな集団なワケですが、恐らくそういう人たちの研修ネタにもなっているであろう、インバウンド客にとっての日本の魅力をまとめたモノとなっています。
通訳案内士の合格者としては、試験のカリキュラムの中にこういった内容は含まれていますので、個人的にはあまり新鮮味はないのですが、神社仏閣や風光明媚な自然、伝統的な日本食といったクラシカルな魅力はモチロン、アニメやサブカル、B級グルメなどの新たな魅力にも通底する日本の精神世界との関連を語られているところが興味深いところです。
西欧諸国が秩序だった「規律」みたいなモノを重視するのに対して、日本の精神世界では自然との調和みたいなモノが比較的重視されることについて、西欧の庭園と日本庭園との違いなどを例にとって指摘されるとともに、アニメにもアニミズムのような伝統的な信仰が盛り込まれていることも指摘され、自然を重視しつつも、決して秩序がないワケではなく、むしろ強制されないにも関わらず自然な姿でありながら、どことなく秩序を感じさせるところが、インバウンド客にアピールするところがあるようです。
この手の本はやたらと日本を持ち上げがちになることがハナにツくことが多いのですが、そういうところも無きにしも非ずではあるものの、精神世界の反映としての日本人の作り上げた世界観が世界の注目を浴びるというのは、通訳案内士としてもウレシいところではあります。