福沢諭吉/大久保健晴

 

 

 この本を手に取るまで気が付いていなかったのですが、実は昨日紹介した『マルクス』や、以前紹介した『宇沢弘文』は、講談社現代新書の『今を生きる思想』というシリーズの一環だったようで、この本では思想家としての福沢諭吉を紹介したモノです。

 

 福沢諭吉というと『学問ノススメ』で知られるように、現代の我々からすると思想家というイメージが強いような気がしますが、元はと言えば緒方洪庵適塾で塾頭を務めたということで蘭学者として頭角を現したことで歴史に登場したということなのですが、その蘭学を学んだことが思想家としても原点と言えるようです。

 

 蘭学を学ぶということは、『解体新書』で知られる杉田玄白前野良沢らが草分けとして知られるように、どちらかというと科学技術への関心が大きな要素を占めていたということで、実際に福沢諭吉の師匠である緒方洪庵は元々医師だったワケですし、福沢諭吉自身も当初は、当時の蘭学塾で扱われることが多かった医学や科学技術を学んでいたのですが、次第にそういう「文明」をもたらす土壌となるリベラルな社会に関心を寄せることになったようです。

 

 のちに「門閥制度は親の敵でござる」というコトバを残したことで知られますが、福沢諭吉は特に身分制度の締め付けが厳しかったといわれる中津藩の出身で、いくら学が進もうとも将来は出自によって概ね決まってしまい、そのことで才能が潰されてしまうことが多かったということもあり、科学技術の進化を促し社会が発展している欧米と比べて、日本の閉塞感が、そういう閉鎖的な社会にあったのではないかということにたどり着いたようです。

 

 その後、民権運動家にも影響を与えるワケですが、欧米の人権の進化が「自由」や「平等」といった個人の利益を出発点としているのに対し、社会の発展の起爆剤としての「人権」というところを起点としているところがユニークだと言えるところで、良い意味でも悪い意味でも日本人の人権意識に少なからぬ影響を与えている気がします。