「売る」から、「売れるへ」。 水野学のブランディングデザイン講義/水野学

 

 

 この本は「くまモン」のデザインや茅乃舎のデザイン戦略などを手掛けたクリエイティブディレクターの水野学さんが慶応義塾大学で行った「ブランディングデザイン」という講義をまとめた本です。

 

 「ブランディングデザイン」というのは、ブランドの構築にデザインを活用しようということで、デザインには、商品や広告のデザインだけではなく、全般的な戦略の「デザイン」まで含まれる概念だということです。

 

 そもそも商品が「売れる」ようにするためには、商品自体を「発明する」こと、その商品に対する「ブームをつくる」こと、と「ブランドをつくる」ことの3つがあるということなのですが、前の2つについては多くのジャンルにおいて既に飽和状態であり、現在では商品が「売れる」ようにするためには「ブランドをつくる」ことの比重が高まっているということです。

 

 でも「ブランドをつくる」ってどうするの!?と思われる方も多いと思いますが、そこで必要になるのが「デザイン」のノウハウなんだということです。

 

 水野さんは「ブランド」というのは、「見え方のコントロール」だと定義されていて、自分たちの商品がどのように見られたいのか、ということを意図的にコントロールする必要があるということです。

 

 その際に大きな役割を果たすのが、商品なり広告媒体なり、拡販戦略なりの「デザイン」だということで、「デザイン」を戦略の中に取り込むことが昨今は不可欠の要素だとおっしゃいます。

 

 「デザイン」というと、「センスがない」と言って多くの経営者はしり込みをしやすいようですが、水野さんによると「センス」というのは「集積した知識をもとに最適化する能力」だと定義されていて、経験やトレーニングによって身に着けるものだとおっしゃいます。

 

 だからこそ、最早「デザインのセンス」から逃げるのは経営者としての怠慢であり、積極的に身につけて経営に取り入れるべきであり、どうしても自信がないのであれば、水野さんのような専門家を戦略デザインの参謀として起用すべきだとおっしゃいます。

 

 実際にデザイン感覚に優れた経営者か、デザイナーを経営層に取り込んでいる企業が成功を収めている例が多く、前者の例としてAppleスティーブ・ジョブスやテスラのイーロン・マスク、後者の例としてジョン・C・ジェイ氏を招へいしたユニクロを挙げられています。

 

 なお、デザインというのは日本で一般の人が思っているより、ずっとロジカルなモノで、誰にどういうメッセージを伝えるか、ということを明確に込めることができなければデザインとしては失敗であり、「センスがない」と思っている経営者層も、認識を改めて、積極的にデザインの取り入れに取り組むべきことを再認識させられる、非常に有意義な本ですので、これまでデザインに積極的でなかった経営者に是非、是非手に取ってもらいたい一冊です。