求心力/平尾誠二

 

求心力 (PHP新書)

求心力 (PHP新書)

 

 

 昨年、惜しまれつつ若くして突然の死を遂げた“ミスターラグビー平尾誠二さんの、今のところ「最後のメッセージ」です。

 平尾さんと言うと旧来的な「体育会」的体質に異を唱えて、すべてのプレイヤーが自律的に動けるようなリベラルなアプローチを提唱することをおっしゃっていましたが、“遺作”となるこの本では、一見、真逆のことをおっしゃっておられるように見えます。

 というのも最近では「自由」を重んじることが行き過ぎて、「勝利を求める」という、そもそもの「目的」を忘れて、ただ「自由」であることを求めることが「目的」になっているように、平尾さんの目には映っているように伺えます。

 あくまでも、ガチガチの縦割りの立場論より、ある程度の自律性を求めることが、勝利への近道になるからこそ、旧弊を破るために提唱したのであって、ナァナァになっては本末転倒だということで、今度は逆に、ある程度の「規律」が必要だということをおっしゃいます。
 
 こういう「手段の目的化」って日本人にありがちですよね…平尾さんは最後まで、本質を見失わなかったということの証左なのかもしれません。

 

増補版 箱根駅伝/読売新聞運動部

 

増補版 - 箱根駅伝 - 世界へ駆ける夢 (中公新書ラクレ)

増補版 - 箱根駅伝 - 世界へ駆ける夢 (中公新書ラクレ)

 

 

 スタート地点である読売新聞の記者による箱根駅伝のクロニクルです。

 「山登り」5区を彩った「山の神」たち、「花の2区」を彩ったスターランナーたち、脅威の留学生たちなどの名選手たちのエピソードや、箱根を支えた指導者たち、そして最近の駒大‐東洋大青学大の興亡の変遷を描いたのち、最後に箱根の歴史を紹介します。

 ワタクシの箱根への関心って、自分が走り出したのと、遠い親戚である元明大の有村選手が活躍した2012年からと最近なんで、こういう通史的なのは、個人的にうれしかったですね。

 

上司は部下の手柄を奪え、部下は上司にゴマをすれ/伊藤洋介

 

 

 慶應卒で、かつて山一證券に勤務しながら、シャインズというお笑いコンビを組んで、エリートコメディアンとして知られた伊藤さんの著書です。

 元コメディアンの著書でタイトルがこんな感じなんで、おちゃらけた本なのかな…と思って読み始めて、確かに部下が如何に上司に仕えるかという部分では、そういうトーンがあるのですが、上司が如何に部下と付き合うかというところから、段々とマジメなトーンが支配的になり、最後の“組織人としての生き方”みたいなパートでは完全にマジメモードで、21年の会社員生活にピリオドを打ったご自身の選択に多少の悔恨を交えながら「正しい」組織人としての生き方を語られます。

 『人事部は見ている。 (日経プレミアシリーズ)』の楠木さんの一連の著作を思い出しながら読んでいたのですが、やはり“サラリーマン”としては、如何に周囲と調和して行くか、ということが最も重要なんだということを改めて思い起こさせる本です。

 

武器としての人口減社会/村上由美子

 

 

 先日、デービッド・アトキンソンさんの『デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論』で、最早人口増が見込めない以上、生産性を上げてGDPを増やすしかない、というお話を紹介しました。

 パッと見、真逆と言うか、人口ボーナスと言う“定説”を覆すかのようなタイトルですが…

 この本を書かれた村上さんは、OECD(経済協力機構)の東京センター長を務められている方で、かつてはゴールドマン・サックスでキムされていたという方だということで、人口ボーナスのことを知らないワケはないのですが、このタイトルはどういうことなんだ!?と、読み始めた時点ではワタクシのアタマのなかは、????だったワケですが…

 モチロン、人口ボーナスの定説のことは念頭に置いた上でお話をされているわけですが、実は日本人と言うのは、アトキンソンさんもおっしゃっていた通り、個々の人が持
っている能力の割に、経済指標上現れている数字はショボいというのが、個々の能力においても、経済でのパフォーマンスにおいても顕著に現れているということです。

 その原因というのが、アトキンソンさんも挙げられていた女性の能力が十全に活用されていないということもあるのですが、終身雇用均衡を前提とした新卒一括が未だに続いていることにより、出世をし損ねた40、50代の人たちの能力が、統計上、世界的にも傑出したモノであるにも関わらず、ムダになっているということです。

 また、発明件数など、日本はイノベーションの素地が豊富であるにも関わらず、それをビジネスにして収益に結び付けている割合が著しく低く、そんなこんなで、日本って相当“モッタイナイ”国なようです。

 ということで、それをちょっと“結果”に結びつけるだけで、相当スゴいことになるようで、なんとかなんないですかね…と、この本を読んだら歯噛みをする人が続出ですよね!?

 

ネイティブ英語なんて必要ない!/吉田ちか

 

 

 小学校1年生の時から16年間アメリカで育ち、YouTubeの英語学習コンテンツ「バイリンガール英会話」で人気の方の著書です。

 どっちかと言うとテクニカルなことよりも、英語の習得に取組むにあたってのマインドセットについて語られることの多い本です。

 タイトルにもなっていますが、日本人は英語を習得しようとするにあたって、やたらとネイティブスピーカーが話すような英語を身に付けようとする人が多いワケですが、そのことについて、

 「最初からネイティブ英語を目指すのは、42kmのマラソ
  ンを100mのダッシュと間違えてスタートを切るみたい
  なものです。ゴールが遠すぎて、スタート前にやっぱ
  り無理と諦めてすまうか、最初のダッシュで疲れ果て
  てダウンしてしまうか。」

とウマいことおっしゃっています。

 また英語の修得ってそれなりに大変なモノなんで、ただただ英語を習得しようと思うだけではキモチが持たないということで、

 「自分をmoveさせるものは何なのかを考えてみて、その
  機会を増やすように自分をmoveする。それがモチベー
  ションを維持するために必要なプロセスなんだと思い
  ます。」

ということで、時折英語に取組もうとしたモチベーションの素を思い起こすことの重要性を指摘されます。

 他にもこういうステキなモチベーションアップのヒントが満載なんで、ちょっと英語習得への取組に煮詰まった人に手に取ってもらいたい本です。

 

職業としての小説家/村上春樹

 

職業としての小説家 (新潮文庫)

職業としての小説家 (新潮文庫)

 

 

 村上春樹さんが小説家としてのご自身を語った本です。

 ワタクシ、元々、歴史小説を除くと、ほとんど小説を読まないこともあって、村上さんの小説も、実は1冊も読み切ったことがないのですが、一時期エッセイを読み漁った時期がありました。

 で、村上さんが、神宮球場のライトスタンドで“天啓”を受けて、小説家になろうと決意してから、現在に至るまでの小説家としてのご自身を語られます。

 エッセイを読み漁った印象では、村上さんってそういうことをしたがる人ではないと思っていたので、非常に意外だったのですが、小説家としてのご自身の取組を残そうという意識はあったようです。

 突然小説家になろうとしたこともあって、小説家としての方法論を学ぶことなく、いきなり書き始めたこともあって、小説家としての“セオリー”的なモノを踏襲していないこともあって、日本の文学界でも未だに異端であるワケですが、その村上さんが自分の“方法論”を語るということで、多分小説家を志そうとしている方には非常に参考になるんだろうな、ということと同時に、全く小説を書こうと、想像もしたこともないワタクシであっても、モノを創作するというプロセスを、非常に興味深く読めます。

 デビュー時点から、本業があって、デビュー作から、それなりの成功も収めたこともあり、他の作家とは異なるスタンスであることは確かなんでしょうけど、こういうことを自慢げに、ではなく乾いた文体で語れるところがスゴイなぁ…とミョーなところに感動してしまいました。

 

読む餃子/パラダイス山元

 

読む餃子 (新潮文庫)

読む餃子 (新潮文庫)

 

 

 本業であるミュージシャンとしてよりも、餃子絡みでグルメ雑誌に登場する方で有名なんじゃないかと思うパラダイス山元さんの餃子愛あふれる一冊です。

 さかなクンがやたらと“魚(ギョ)”を会話の中に織り交ぜるように、パラダイスさんも“餃子います(ございます)”のように会話の中に“餃”を織り交ぜます。

 パラダイスさんは餃子愛が昂じて、不定期営業の会員制餃子専門店「蔓餃苑」を営んでおられるということで、ご自身で作られる餃子のことから、専門店で食べる餃子、さらには冷凍餃子に至るまで、餃子愛が感じられる対象であれば、ワケ隔てなく愛を注がれます。

 ワタクシも餃子が大好きで、さすがにパラダイスさんみたいに皮からは作らないものの、タネからは自作して食べているのですが、その際に役立つ小ネタも満載で、非常に参考になります。

 外食派の人もモチロン、寧ろ餃子がニガテな人に読んでもらって、餃子を好きになってもらいたい本です。