AI時代の新・ベーシックインカム/井上智洋

 

AI時代の新・ベーシックインカム論 (光文社新書)

AI時代の新・ベーシックインカム論 (光文社新書)

 

 

 ここ数年でAIに関するトピックが急増していて、本格的にAIが導入された社会を予見する本も多く出版されていますが、この本もそのうちの1冊ではあるのですが、どちらかというとAI自体よりもベーシックインカム(BI)に重点が置かれた本です。

 AI後の社会を予見したいくつかの本ではいずれ多くの人が働かなくてもよくなる未来を予測したモノがありましたが、どうも「働かざる者食うべからず」の倫理観にドップリと浸かった我々の脳ではうまくイメージできないところがありました。

 でもBIというのはニクソン大統領時代のアメリカでも導入に向けた法案の提出もあったとか、北欧諸国では現在導入に向けた準備が進んでいるなど、どうも空想の世界のモノではなさそうだということが理解できます。

 儒教プロテスタントの教義に基づく倫理観に浸かった多くの人々は、働かない人におカネを配るなんて…という倫理的な面や、タダでおカネをもらえたら働こうと思う人がいなくなるんじゃないかという危惧もあると思うのですが、そういう危惧への反証と
も言える社会実験も行われているということです。

 さらには生存権の保証の一環とも言える生活保護は、資格要件を峻別するよりも一律にある程度の金額を配ることの方がコストが下がるという側面もあるということと、昨今ではギャンブル依存も一種の疾患として捉えられるようになってきているということに鑑みると、“怠惰”も一種の“疾患”として捉えるべきなのではないかという考え方もあり、労働を強要する倫理観を一律に押し付けるべきなのではないのではないかという考えもあるようです。

 さらに科学技術の進化により、これまでも多くの職業がなくなってきたように、AIの進展によりより多くの人が失業する蓋然性が見込まれるということで、かなりマジメにBIの導入を検討すべきなのではないかと提唱されています。

 2030年頃には、導入が一番困難だと言われる肉体労働の分野でもAIの導入が見込まれ、2045年頃には完全な定着が見込まれるということで、その頃にBIが定着していなければ多くの人が食えない状況になっていまうということです。

 そして人間はギリシャ時代のような文化に生きる存在になるのではないかということで、そういうことをかなり現実に視野に入れる必要があるようです。

 

サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 会計編/三戸政和

 

 

 以前『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門 (講談社+α新書)』をこのブログで紹介して「その手があったか!?』とカンドーの余り続編というか実践編を熱望する旨を紹介したのですが、そういう声は多かったようです。

 “実践編”の中でも実際に企業買収をする際の評価に特化した内容で「会計編」ということになっていまして、ちょっと怯む人も少なからずいらっしゃると思いますが、三戸さんご自身としてはできる限り皆生の専門用語を使わずに企業買収に最低限必要な内容という意図で書かれているとおっしゃっておられますが、会計オンチの日本のビジネスパーソンを買い被っておられるのか、そこそこの会計の知識…少なくともB/S、P/Lを多少は見れないと全く理解できない内容になっています。

 企業を買収する上で、それがいくら1円で売ってくるとしても、いきなり大負債を背負わされる可能性もあるワケで、しっかりとその会社の収益性や保有資産の価値を評価した上で、投資金額よりも少なくともプラスの価値がないと意味がないというワケで、
“会社の値段”を如何にして測るかということをいろんな側面から紹介されています。

 その中には単純にB/S上の純資産から見る方法もあれば、その会社が生み出す収益の5年程度の価値のキャッシュフローの現在価値を測る方法に始まり、保有資産の時価やブランド価値など単純に帳簿上では測れない価値についても言及されていて、買収だけに特化した内容になっていて参考になります。

 今後も、この「会計編」に留まらず、事業憧憬の具体的なトピックなどを扱った内容など、シリーズ化して欲しいモノです。

 

「身体を売る彼女たち」の事情/坂爪真吾

 

 

 性愛関連の著作で知られる坂爪さんが性風俗で働く女性たちの葛藤を紹介した本です。

 坂爪さんは性風俗で働く女性たちを支援する「風テラス」を運営されていて、そういう女性たちに積極的にコミットされている中で、世間のステレオタイプ的なイメージとは異なり、必ずしも追い詰められたりとか、おカネの工面のために性風俗に従事するというワケではなく、ある意味積極的に性風俗で働くことを選択しているという側面が少なからずあるようです。

 長い目で見ると結局積極的に性風俗で働くことを選択した女性たちも、追い込まれることになりがちだということで、「冷静な意見」として性風俗との関連を断つことを周囲から進められるけれども、彼女たちからすれば必然の選択を積み重ねた結果、世間的に見れば不合理な選択をしたようにみえるということも多いようです。

 役所などに支援を求めても性風俗で働いていることが支援を受けることの阻害要因となることも多いようで、性風俗と縁を切るようにとの社会的な圧力はあるのですが、性風俗がある意味、セーフティネットとして機能しているという側面もあり、当人にとってみれば性風俗と縁を切ることが現実的な選択肢ではなくなってしまっているということで、性風俗に従事しながら現状を少しずつ改善して行こうということで坂爪さんは「風テラス」での支援に取り組んでいるようです。

 そういう活動について性風俗の助長だと非難する向きもあるようですが、何らかのカタチで困難に陥っている人の現状を少しでも改善しようとする手段があるということは一定の意義があることなんじゃないかと思います。

 

論破力/ひろゆき

 

論破力 (朝日新書)

論破力 (朝日新書)

 

 

 2ちゃんねるニコニコ動画を始められたことで知られるひろゆきさんが「論破」のコツを紹介する本です。

 最近は堀江貴文さんとの共著などメディアに出てくることが増えてきたひろゆきさんですが、そんな中で論破の名人として知られるようになったということで、こういう本の出版を打診されたようです。

 「論破」って要は議論に勝つということですが、そのキモとしては感情を交えず反論の余地のない「事実」と淡々と並べていくことだとおっしゃいます。

 よく議論でアツくなる人がいますが、あれは絶対に不利だということで、感情を抑制することを再三強調されます。

 逆に自分の議論を有利にするために相手の感情を刺激するといった裏ワザも紹介されていたりします。

 様々な議論の形態での「論破」の方法をかなり事細かに紹介されていて、フツーの人だとプライドや世間体など色んなものがジャマをしてなかなか勝つことだけに集中して取ることのできない手段もテクニックとして紹介されていて、そこまでできたら無敵だろうな、と思います。

 っていうか、こういう人とあまり関わり合いになりたくない相手と思わせるのが最強ってことなんっすかね!?

 

小休止のすすめ/ヒロミ、藤田晋

 

小休止のすすめ (SB新書)

小休止のすすめ (SB新書)

 

 

 一時期テレビに出なくなった時期があって、ここ数年また毎日のようにテレビで見かけるようになったヒロミさんがサイバーエージェントの藤田社長と「小休止」の効用を語られます。

 B21スペシャルというお笑いユニットでデビューされて、飛ぶ鳥を落とす勢いでテレビに出られていてトップアイドルであった松本伊代さんと結婚されたヒロミさんですが、2005年頃から徐々にテレビでの仕事が減り始め、約10年間テレビに出ずにジブの経営などをされていた時期があったということですが、2014年頃から再びテレビに復帰し、現時点でまた頻繁にテレビでお見掛けするようになっています。

 そんなヒロミさんがタレントとしての「小休止」の時期に親交を深めたサイバーエージェントの藤田社長と「タイミング」「変化」といったキーワードを手掛かりに交互に「小休止」について語られるといった構成になっています。

 昔は尖ったイメージのあったヒロミさんが復帰後に円熟味を増していると言われるのも「小休止」中に体験したことで視野が広がり、より周囲のを意識した仕事ができているからだとおっしゃいます。

 お二方とも成功するまでにわき目も振らずに“走って”こられたからだということもあって、一旦自分を振り返るということもあって「小休止」は必須のモノであるとおっしゃられていますが、藤田さんがあとがきで「休みながらじゃないと長距離は走れない」とおっしゃられているのに尽きる部分があって、人生100年時代と言われる今「小休止」の重要性はより高まっていると言えます。

 でも多くの人は「小休止」できる状況にはないと思うのですが、少し走るペースを落とす時期を持てるかという意味で参考になるのではないでしょうか!?

 単純に挫折を経た人の人生訓的な読み物としても良質なモノとなっていますので、是非とも一読の程を!

 

警備ビジネスで読み解く日本/田中智仁

 

警備ビジネスで読み解く日本 (光文社新書)

警備ビジネスで読み解く日本 (光文社新書)

 

 

 学生時代に警備員の制服に憧れ、アルバイトで警備員をしていた社会学者が警備ビジネスの沿革や現状、今後の姿を語ります。

 元々「警備ビジネス」はかつての“用心棒”的なモノから端を発しているということもあって長きに渡り裏社会との関連が深かったということで、現代日本の様々な場面において不可欠な警備であるにも関わらず、なかなかそれにふさわしいスポットライトを浴びることもなく、なかなか警備業務に従事する人たちを集めることが困難であったり、一見単純業務に見えてしまうことから待遇自体の向上もままならなかったことなどが紹介されています。

 たた不安性差を増す社会を反映してか、警備ビジネス事態へのニーズは確実に増加しており、機械化や自動化などを含めて発展を続けており、高齢者雇用の受け皿としても重要な役割を果たしているという現実もあります。

 警備ビジネス自体を正面から捉えた著作自体が少ないということもあり、タイトルにある通り日本の戦後の社会をかなり忠実に反映しているという部分もあり、なかなか興味深い内容でした。

 

精日/古畑康雄

 

精日 加速度的に日本化する中国人の群像 (講談社+α新書)

精日 加速度的に日本化する中国人の群像 (講談社+α新書)

 

 

 共同通信の記者の方が語る、極端に日本に肩入れする中国人達の実像です。

 2019年の桜のシーズンに中国の大学構内で和服で花見をしようとして当局に拘束される中国人の人がいたというニュースを見て、何でまた好き好んでそんなことをしたんだろう…と不思議な気がしたのですが、最近中国では旧日本軍の軍服を着て、中国国内のかつての戦跡で写真を撮ることがごく一部で流行しているということで、かなり驚きました。

 ごく一般的な日本人からしたら、何で自分たちを侵略した日本軍の軍服を着たくなるのか…と思う向きもあるでしょうが、思い返してみれば、かつて完膚なきまでに日本人を叩きのめしたアメリカ軍のグッズを求める日本人が少なからずいて、日本国内でそういうビジネスがリッパに成り立っているところを見れば、さして異様なことでなないのかな、と思わされますが、日本文化がそれだけの影響力を中国において持ちえたということがオドロキだったりするのですが、日本人がアメリカの軍服を着ることほど単純なことでもなさそうです。

 こういった人々について中国当局は「精日」と呼んで警戒しているようで、実際にこういう人達は日本のあこがれだけではなく、中国当局への反発の感情も、そういう行動の背景にあるようです。

 ただ旧日本軍の軍服を着て制圧された遺跡で写真を撮るといった極端な行動をとる人は、「精日」と言われる人の中ではむしろ少々メイワクと捉えられる面もあるようで、もともと「精日」というのは「精神的日本人」の略で中国人でありながら自分の精神的な基盤は日本的なモノで形成されていると考えている人たちで、ライトな層であれば日本文化へ継投するあまりそういうスタンスを取っている人たちだということです。

 ただこういう人たちは多かれ少なかれ中国当局への違和感を持っているということで、表面上はともかく、現在の中国は結構不穏な空気を孕んでいるのかも知れません。