ビートルズを呼んだ男/野地秩嘉

 

 

 以前、『サービスの達人たち』のシリーズを立て続けに紹介した野地さんが、大手プロモーターのキョードー東京創始者で、ビートルズの来日公演をプロモートしたことで知られる永島達司の生涯を追った本を書かれているのを知って手に取ってみました。

 

 吉本興業の闇営業が問題になった時に、そもそも興業というのはヤクザのしのぎとして発展したという側面があったことを知りましたが、永島さんが”呼び屋”を始められた頃は、そういう色合いが強かったようで、永島さんの周囲の同業者のかなりアクの強い活躍ぶりも紹介されています。

 

 ただ永島さんはニューヨークやロンドンに在住していたことがあって英語が堪能であったことから、進駐軍関連の仕事がキッカケで、興業を手掛けるようになったということで、そういう一発狙いの”呼び屋”とは一線を画していたようで、ご自身が本物だと感じた欧米のエンターテインメントを日本に紹介しようというところが興業を手掛ける動機になっていたようです。

 

 永島さんのそういう公正な姿勢が、ナット・キング・コールなど名だたるエンターテイナーの信頼を得たようで、次々と良質な公演を手掛けて行ったというところが、ビートルズの来日を手掛けることにつながったようです。

 

 そういう戦後の日本の興業の様子を紹介するとともに、やはりこの本のハイライトはビートルズ来日公演のドキュメントで、興業元である永島さんの周辺はモチロン、コンサートを見に行く人たち、警備を担った警察や消防の方々など、多角的に紹介されていて、その頃の空気が浮かび上がってくるような気すらします。

 

 いわゆる興業も、今や一大産業となって、こういう際立った個人が存在感を発揮する場面は減っているのかも知れませんが、こういう積み重ねがあってこそ、世界的なアーティストの来日公演がフツーにある状況につながったのかと思うと、なかなか感慨深い想いをさせられました。

子どもを一流ホワイト企業に内定させる方法/竹内健登

 

子どもを一流ホワイト企業に内定させる方法

子どもを一流ホワイト企業に内定させる方法

  • 作者:竹内 健登
  • 発売日: 2019/12/12
  • メディア: 単行本
 

 

 ネットで本を無料でくれるというのを見て、ブログネタがタダで手に入るということで飛びついたさもしいワタクシでありましたが、その後FacebookYouTubeで再三この本を出版された方が運営されている企業のCMを見るハメにはなりましたが、それに値する内容だったのでしょうか!?

 

 コロナ禍以前は就活市場は売り手市場で、さも思ったような仕事がいともカンタンに手に入る様な勘違いをされている方々が少なからずおられたようですが、有効求人倍率は高くても、人気企業の倍率はそれより遥かに高いということで、ホンの一握りのトップクラスだけが思ったような就職先の内定を数多くGetするという状況で、その他大勢はブラック企業の内定しか得られないという、ビミョーなアンマッチが生じていたことはあまり知られていないようです。

 

 以前だと一流大学出身であれば、それなりのステータスの企業の内定をGetすることができたんでしょうけど、学歴ばかりで使えない社員に辟易した企業側も学習したのか、かなり適性を厳格に見るようになったようで、そうカンタンには条件の良い企業の内定を得ることは、超売り手市場でも難しくなっていたようです。

 

 著者で、ホワイト企業への内定率100%を誇るという就活スクールを運営している竹内さんも、東大卒でありながら思い描いていたような内定を得ることができずに就職浪人をされたということなのですが、その経験を踏まえて、如何にして一流ホワイト企業への内定をGetできるのかということを紹介されたのがこの本です。

 

 まずは学歴で最初のスクリーニングがされているので、そのスクリーニングを通過する人だけがこの本の対象となるのですが、そのスクリーニングを通過するようなIQだけでなく、最近の企業が求める人材は、如何にうまく立ち回れるようにするのかいうEQまでもが条件になっており、さらにはキチンと企業ひいては将来の顧客が求めるであろうことをソツなく提示できるか言うことを試す「就活力」すら身につけておくことが必須のようです。

 

 そういう資質を身につけるには、就活期の1、2年だけでは到底かなわず、この本を読んでいる限りでは、高校時代の大学選びからそういったことを視野に入れておく必要があるようで、バブル期にサブザブの就活しか経験していないワタクシなどには想像もできません。

 

 しかしながら長女が高2で、そういう意味でかなりタイミングよくこの本を読むことになり、タダでいただいたこの本から得た有益な情報に、このブログで紹介するという位のリターンをしてもバチは当たらないかも知れません!?(笑)

丁寧に考える新型コロナ/岩田健太郎

 

丁寧に考える新型コロナ (光文社新書)

丁寧に考える新型コロナ (光文社新書)

 

 

 日本でのコロナ禍の発端とも言えるクルーズ船での感染拡大時に、感染対策の専門家として呼び寄せられたものの、あまりに正当で厚労省の官僚に取って“イタい”指摘を連発したがためにクルーズ船を叩きだされ、その惨状をYouTubeで暴露したことで一気に名を馳せ、その後もSNSでコロナ禍に関する”正論”を発し続ける岩田センセイがコロナ禍の様々な側面について語られた本です。

 

 どうもコロナ禍では、あまりに社会的な影響が大きくなったこともあって、感染症の門外漢が、専門家からすると首をかしげるしかない意見をイケしゃーしゃーと発していることが多いようで、そういうモノに対してSNSで修正発言をした岩田センセイが却ってディスられるということも多いようです。

 

 ということで、そういう誤解を解き解すという意味が多いようですが、PCR検査をやたら増やすことの有害性や、マスク万能論へのギモン、その他感染防止に関する姿勢など、これまで誤解していたことも多く、非常に分かり易い内容となっています。

 

 こういうそもそも論でちゃんとCOVID-19がどういうモノなのか、どういう対策をすればキチンとした感染抑制につながるのかということを認識したうえで、最低限で効果的な対応をすることが重要であるにも関わらず、似非専門家のしたり顔の忠告に歪められているところが多かったんだなぁ、と痛感させられます。

 

 最後では「8割おじさん」こと西浦博先生との対談があって、専門家として政府と関わるにあたっての苦労話を切々と語られており、今回のコロナ禍において政府の対応が相当専門家集団の足を引っ張っていたことを明かされており、対応の遅れや、政治的な捻じ曲げなど、今回のコロナ禍の少なからぬ部分が政府によって生み出された”人災”とも思えてきました。

 

 

アンチ整理術/森博嗣

 

アンチ整理術

アンチ整理術

 

 

 森さんは多作でかなり締切も守られるタイプなんだそうで、そういうところを見込んだ編集者から、仕事術的な本の執筆依頼が引きも切らないということで、基本的にスケジュールに余裕がある限りは仕事を断らない森さんとして引き受けたものの、ご自身で実はあまり身辺を整理されるタイプだということを冒頭でおっしゃっています。

 

 しかも、その依頼をした編集者との「整理術」についての対談が、当初どうなるんだろう…と思うくらい噛み合わないのですが、何となく示唆に富んだ結論にしてしまうところがビミョーにスゴかったりします。

 

 大学の研究室に居られることが多かったということで、まあ大学のセンセイで机がキレイな人なんてほとんど見たことが無いように、森さん自身も趣味の鉄道模型関連のモノも含めて、かなりモノが散乱している状態にあるということで、「整理術」とは真逆であるのですが、部屋が散らかっている人がよく言うように、それがその人に取って秩序だった状態だということです。

 

 ただ、帯にあるように、机は散らかっていても、考え方のスジや行動に一貫性があれば、それほど実生活上困るワケではなく、そういう一貫性のために、自分に取って何が重要なのかという優先順位付けを常に意識していれば、それほど小手先の整理術に頼る必要ないんじゃないか、ということで“アンチ”整理術とされているのかな、という気がします。

 

 常に自分の価値判断を優先させるというのは、他人の目を気にすると意外と難しいところもあるのですが、個人的には今後そこを何とか貫いていきたいモノです…(笑)

自分の頭で考える日本の論点/出口治明

 

自分の頭で考える日本の論点 (幻冬舎新書)

自分の頭で考える日本の論点 (幻冬舎新書)

 

 

 ホントはコロナ禍の年末年始の巣ごもりで読もうと思って早くに入手していたのですが、意外な程、年末年始に出かけたりして、かつかなりディープな内容で読みかけては躊躇してたりして、3月になってようやく読了した次第です。

 

 『自分の頭で考える』ということで、昨今議論を呼んでいる21の論点について、周辺的な情報と、出口さんご自身の考え方を提示することで、モノを考える上で必要となる情報の集め方と、その情報を元にして如何にして試行して行くかということについて、ティピカルな題材を使って具体的に示していくといった内容となっています。

 

 しかも、取り上げられている論点が、コロナ後の社会や、働き方、AIとの関わり方など、未だ様々な説が横行しているトピックだということで、情報の集め方だけでもかなりヘビーですし、どこに論拠を置くのかすら難しいと思えるトピックが多く、それぞれの論点だけでも1冊の本になりそうなモノで、それが20ページ前後に凝縮されて400ページ余りの大著になっているということもあり、久々に読了するのに数日かかる本となってしまいました。

 

 最後には、様々な課題について考えるための10の方針が挙げられていますが、出口さんが著書で再三おっしゃられている「数字・ファクト・ロジックで考える」を始めとして、実質的な思考をすることの重要性を強調されており、そのためにも学術論文等も含めて、情報収集の正否も重要であるということで、年金や財政問題など、この本で取り上げられているトピックの中でも、学説等を丹念に読み解けば、ほぼほぼ結論が出ているモノであっても、声の大きな人が自身の利害に基づく発言をしているのをみると、自身の考え方や情報収集に不安があれば、引きずられかねないこともあるということです。

 

 まあ、言ってみれば自分のアタマで考えるためのトレーニング集とも言えるモノで、それぞれのトピックについて自分なりの考え方ができれば、結構スゴイかも知れません…まぁ、出口さんのご意見を読んでしまうと、どうしても引きずられるんですけどね…(笑)

生きる力ってなんですか?/おおたとしまさ編

 

生きる力ってなんですか?

生きる力ってなんですか?

 

 

 以前紹介した『子どもはなぜ勉強しなくちゃいけないの?』『続子どもはなぜ勉強しなくちゃいけないの?』のシリーズ本だということで手に取ってみました。

 

 今回の執筆陣も『子どもはなぜ勉強しなくちゃいけないの?』でも執筆されていた思想家の内田樹さん、『五体不満足』の乙武さん、そして個人的には一番楽しみだったのが西原理恵子さんと、非常に豪華です。

 

 『子どもはなぜ勉強しなくちゃいけないの?』では、多くの執筆者が「生き抜くために」勉強をすることを勧められていたのですが、この本でももう一段根源的な部分に踏み込んだ「生きる力」を問われています。

 

 今回も、子供向けと大人向けの2パートでそれぞれの執筆者が書かれているのですが、内田樹さんは子供向けのパートでやたら難しいことを書かれているなぁ…と思っていたら大人向けのパートの執筆が無かったのはご愛敬ですが…

 

 それぞれの執筆者が、ご自身の著書でおっしゃられていることも多く、最近紹介した乙武さんの『自分を愛する力』でおっしゃられていた、自分で判断するようにすることの重要性をここでも語られていますし、西原さんは再三ご自身の著書でおっしゃられている、女性が自分で稼げるようにしておくことで、ダンナさんから理不尽な仕打ちを受けた時にいつでも逃げれるようにしておくということをここでも語られています。

 

 あとは椎名誠さんが、最近の日本では”死”に触れることが極端に少なくなっていることに触れられていて、”死”を意識することが、より”生”を理解することにつながるということも印象的でしたし、C・W・ニコルさんが自然の中で生きて行けるようにすることで生命力を強化できるということもナットクです。

 

 『勉強編』と異なり、かなり多様な論点がありますが、それだけにどこか参考にできるモノが見つかり易い気がしますし、特に親御さんがこの本を読んで、やたら子供にかまいすぎないことの重要性を意識する方が重要だったりするのかも知れません!?(笑)

ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ/近藤大介

 

 

 先日2018年の著書である『未来の中国年表』を紹介した中国ウォッチャーの近藤さんの今年1月出版の最新刊です。

 

 タイトルに『ファクトで読む』とあるように、「はじめに」で「親中」でも「反中」でもなく、近藤さん自身が取材されてきたファクトを元に構成されていることを強調されているのですが、普段ヤフーニュースに連なっている「反中」的な記事を見慣れている目からすると、随分と中国寄りの内容に思えますが、そういう感覚こそ日本人に取って現実から目をそらしていることなのかな、と全体を通してこの本を読んでいると感じさせられます。

 

 コロナ禍の対応でより明確になりましたが、それ以前、GDPで中国が日本を追い越して以降、かなりの勢いで中国は日本を引き離していたにも関わらず、人口規模が違うからとか、一人当たりGDPでは…といった感じで、現実に目を向けようとしていなかったことを指摘されています。

 

 それだけではなく、こちらもコロナ禍の対応の差で、より明確になった部分はあるのですが、韓国や台湾との差が詰まっているどころか、行政の質などはむしろ韓国や台湾の方が遥かに上質であると思える状況です。

 

 そういうモノを生み出した原因というのが、どうやら中国との距離感であるようで、

常に中国からの圧迫のリスクと隣り合わせの両国が、常にその危機感の下で政策を遂行しているのに対し、何かあればアメリカに頼ればいいと思っている日本と大きな差ができてしまうのは、ある意味当然の帰結と言えるのかも知れません。

 

 特に日本が危機感を持たなくてはいけないのは、習近平は台湾を併合することをかなり現実的な目標と考えているようで、その一環で、尖閣諸島の占拠も視野に入っており、その際東シナ海の小島の防衛にアメリカが介入することも、アメリカの国内世論的に現実的ではないことを覚悟しておくべきということを、ちゃんと共有しておく必要があるようです。

 

 そういうフツーの国としての覚悟を取り戻すことが喫緊の課題だということを国民に提示する覚悟が、ゆでガエル状態の自民党政権にあるのでしょうか…