武士の家計簿/磯田道史

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

 江戸時代を中心に古文書の研究をされている方の著書で、加賀百万石
前田家で、財務官僚として使えていた猪山家の詳細な家計の出納状況を
記録した古文書と出会ったことから生まれた本です。

 割と無味乾燥な収入と支出の状況の記録が中心の古文書だったようで
すが、それでも天保〜明治に至る下級武士の生活の状況がありありと
伺えるようです。

 その中で、「武士は食わねど高楊枝」と言われるように、多くの武士
が経済的に困窮していたようです。
 財務官僚である猪山家においても、恒常的な赤字体質となっているこ
とが伺えるようです。
 その原因というのが、武士であることによる交際や祭礼といったこと
への支出が多いことのようです。

 収入の方も、江戸詰めになってそういう支出が多くなることが分かっ
ていても藩の方で、それに見合うフォローがあるわけではなく、しかも
江戸初期に決められた石高による収入で、物価が比較にならない程上が
った江戸時代後期の支出に対応できるものではなかったようです。

 あとは、風俗的にも意外なことがわかるようで、武家の離婚率が高か
ったこととか、それと関連してか、武家の妻とその実家の結びつきが
強かったことなどが窺えるようです。

 研究者じゃなければ、知ってどう、と言うわけではないのですが、
歴史の興味のある方は、そういう背景があったんだなあ、と思うだけ
でも非常に有意義だと思いますので、是非手にとってみてください。