怪しい戦国史/本郷和人

 

 

 本郷センセイが産経新聞に執筆された『本郷和人の日本史ナナメ読み』という連載の20215年7月~2018年5月掲載分を元に構成された本です。

 

 本郷センセイは『京都ぎらい』の井上章一さんとの対談本『日本史のミカタ』の中でも学界では異端であることを告白されており、この本もそうですが、著書のタイトルに『東大教授が教えるやばい日本史』とか『ざんねんな日本史』とつけるなど正統性からの距離を感じさせるものが多いワケですが、この本では本郷センセイの歴史的な事象に対するアプローチの方法論がふんだんに語られます。

 

 何度か桶狭間の戦いについて取り上げられていて、『信長公記』などの古文書に基づく通説では織田信長が10倍にあたる2万の軍勢を要する今川義元に奇襲を仕掛けたことになっていますが、肥沃な尾張を本拠地とする織田軍の動員力はわずか2000だったとは考えにくく、かつ戦前の日本軍の戦史研究などを見ても正攻法に近い戦術を取られていたようで、かなりガチな戦いに勝ったんではないか、という説を取られています。

 

 長篠の戦いや、戦国時代ではなく源平合戦壇ノ浦の戦いにおける海流の影響などについても語られますが、いずれも人文科学の一分野である「科学」部分を重視したアプローチを取られていて、かなり合理性というか論理的な説明をされています。

 

 また、フツーの人間だったらこうするよね!?という部分について、歴史上の人物であっても、それほど行動の論理は変わらないんじゃないかという、ここでも合理性を前面に押し出した歴史的な事象へのアプローチを取られていますが、そのベースには古文書の読解を重視しすぎる日本史学界への批判的な見方があるのかも知れません。

 

 というのも、現在放送されている大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は『吾妻鏡』をベースに脚本を書かれていると三谷幸喜さんはおっしゃっていますが、『吾妻鏡』はあくまでも北条家主導で編まれた「正史」なので、基本的に北条家に都合の悪いことは書かれないということもあり、多かれ少なかれ歴史上の「事実」と比較すると歪みがあることは否めません…

 

 ということで、モチロン古文書の研究は重要ではあるのですが、歴史を研究する上で、本郷センセイのようなアプローチをとる人がいることも重要な要素なのではないかと思うのですが…