江戸の備忘録/磯田道史

 

 

 磯田センセイがご専門のメインである江戸時代を中心に、朝日新聞の週末版『be』に寄稿されたエッセイ的な文章を集めた本です。

 

 本としてまとめて出版されたのが2008年なのですが、連載をされているのは『武士の家計簿』でブレイクしつつある時期だったようで、この本でも、あまりマイナーな内容ばかりだと読者から敬遠されかねないからか、歴史上著名な人物も取り上げられてはいますが、やはり『武士の家計簿』で注目を浴びただけに、歴史の裏側で日々の生活を送る様子が多く取り上げられています。

 

 歴史上の著名人のエピソードも、秀吉が愛妾に宛てたやたらとエロい手紙のハナシや、『殿様の通信簿』でも触れられていた殿様の女グセの悪さ、西郷隆盛の極度の犬好きのエピソードなど、裏話的なモノがほとんどで、この頃の磯田センセイはちょっとナナメから歴史を眺めるといった作風がウリだったことが伺えます。

 

 ただやはり何といっても磯田センセイが輝くのは、ワタクシ的には古文書を読み解いてその頃の市井を生きる人々の様子を生き生きと甦らせることだと思っていて、この本ではそういう期待に満額回答で応えてくれます。

 

 どうしても古文書を残すような人々のことが中心になるので、概ね侍階級のことが多くなるのですが、それでも課税についての事情や、実は庶民も苗字を名乗っていて、水戸藩などは積極的に奨励していたことなどを紹介されていたりします。

 

 まだ参勤交代による単身赴任の事情や、実は江戸期は離婚率がかなり高かったことなど、フツーの生活について触れられていて、現代に通じる生活者としての顔を窺わせます。

 

 こういった歴史を活きたモノとして取り上げるカタチを広めたのは磯田センセイの大きな功績であり、今後もこういう方面での著作を充実させていって欲しいところです。