無私の日本人/磯田道史

 

 

 『武士の家計簿』を始めとして、歴史上無名と言われる人物をイキイキとよみがえらせることを得意とする磯田センセイの真骨頂とも言える本です。

 

 この本に収められている『穀田屋十三郎』が2016年に羽生結弦選手が仙台藩主伊達重村を演じたことでも話題になった『殿、利息でござる』として映画化されたことを、この記事を書いていてAmazonのリンクを貼ったことで知ったのですが、仙台藩に資金を貸し付けて利息をもらうことで窮迫した地域だった吉岡宿を救おうとした、当時としてはかなり斬新で大胆な取組を紹介されています。

 

 当時、支配階級である武士でもここまで金融に関する知識は稀有だったということで、相当先進的な取組であったと同時に、窮迫した地域でそれだけの資金を集めることの苦難、さらにはそういう取組が、ある意味仙台藩の施政への批判につながり罰せられるリスクといった様々な困難があり、一部の出資者は、そのために破産の危機に陥るなど、かなりの犠牲も強いられたということですが、そのことで地域の人々が救われるのであれば…という義侠心でそれを耐え抜いたということです。

 

 また、その他の2編も、学問を出世の手段とすることを嫌い、食うや食わずのレベルまで窮迫しながらも、ただただ学問の陶冶に専心した人のエピソードや、結婚相手や子供を次々と亡くす不幸に見舞われた絶世の美女が出家後に施しの人生を送るなど、自分を顧みず他者の救いを主眼とするような人がいたんだ、ということに感動を覚えます。

 

 戦後アメリカ的な、如何に他人を押しのけてまで自分がトクをし、おカネを儲けるかということばかりを考えるような拝金主義的な姿勢が目立つよう思えますが、自分のことは置いておいても、困った人を助けようという美質を持った人々が日本人にも少なからずいたことを語り継ぐことの重要性を強調されているような気がします。

 

 出版社的には歴史上著名な人物を取り上げないとなかなか売上につながらない面もあるので、なかなかこういう無名の人物の偉業を紹介するような本は出版しにくい部分はあるでしょうけど、こういうジャンルを”売れる”モノにした磯田センセイの功績は相当大きいモノがあるんじゃないでしょうか!?