秋天の陽炎/金子達仁

 

秋天の陽炎 (文春文庫)

秋天の陽炎 (文春文庫)

 

 3日続けて金子さんのサッカー本ですが、昨日一昨日は五輪やW杯予選というビッグゲームが題材でしたが、この本は、J1昇格がかかっているとはいうものの、1999年のJ2最終戦という比較的地味なゲームが題材です。

 

 この本では大分トリニータがFC東京と昇格を争っていて、勝てば昇格となる試合で、ホームにモンテディオ山形を迎えた試合を紹介されています。

 

 そういう特殊な状況での試合で、それぞれの立場でそれぞれの事情を抱えつつ試合に臨む心情を描かれているのですが、特にその試合の中でいくつかのビミョーな判定をすることになるレフェリーの心情をかなり大きく扱われているのが印象的なのですが、ともすればレフェリーの判断を糾弾するようなカタチになりかねないところを冷静に、できる限りプレーンに描こうとしているところが印象的です。

 

 結果として大分トリニータは昇格を逃すわけですが、金子さんはこの本以前にも、今やJ1リーグ屈指の強豪として2017、2018シーズンには連覇を果たすことになるフロンターレ川崎の昇格を追った『魂の叫び J2聖戦記』も書かれており、かなりJ2からJ1への昇格をめぐる動きを紹介することに熱心に取り組んでおられたようです。

 

 ワタクシ自身はこの本を文庫版で読んでのですが、本編もさることながら付録として金子さんの沢木耕太郎さんとの対談を収録しているのがワタクシにとっての大きなセールスポイントだったりします。

 

 対談の中では、代表作である『28年目のハーフタイム』や『決戦前夜』を含めて、金子さんの著書へのアプローチについて語られているのですが、沢木さんのアプローチをなぞっていると思われるところもあったのが興味的で、2つの著書よりもこの本で、コアなサッカーファン以外にはそれほど興味をそそるとは思えないJ2の試合にフォーカスすることのスポーツライティングとしての意義を重視されているところが印象的です。

 

 この対談の中で、当時は色んな題材を扱いながら結局はサッカーに戻っていくと語られている金子さんですが、最近ではすっかりスポーツライティング自体からも遠ざかられているようですが、いつかまたこの対談での言葉通り、サッカーを題材とした執筆に戻られることを期待しつつ…