女と男/橘玲

 

女と男 なぜわかりあえないのか (文春新書)

女と男 なぜわかりあえないのか (文春新書)

 

 

 ”あの”橘さんが何と「性愛」について語られた本を出版されたということで、早速手に取ってみました。

 

 ここ数年橘さんは『言ってはいけない』のシリーズとも言える、みんな大っぴらには言わないけれど…という趣旨の諸作を立て続けに出版されていますが、この本はある意味、その最たるモノと言えるのかも知れません。

 

 というのも元々性愛論というのは、あんまり社会で大っぴらに語るべきモノではないという暗黙の了解もあったでしょうし、なかなか科学的に語られることのない分野だったのですが、近年欧米ではこの分野にも科学的な研究が急激に増えてきているということで、未だこの分野をタブー視することの多い日本人にシロウトでも面白おかしく読めるようなトピックを集めて、最新の研究の成果を紹介された本です。

 

 科学的な議論がされる以前の性愛論は、男性優位の社会を反映してか、かなり男性側の思い込みによって議論が展開されることが多かったということで、「女性は男性の劣化コピー」なんて暴論がまかり通ってしまっていたこともあったようなのですが、科学的な手法が導入され、かつ女性の研究者もこの分野の研究に多く参画することによって、かなり従来的な”常識”が修正されてきていて、生物学的にはむしろ女性の機能がヒトとして完全なモノで、男性は不完全なんだということです。

 

 サブタイトルで『なぜわかりあえないのか』と題されていますが、そもそも男性と女性の性愛に対する期待値は、全く利害が一致しない側面があるということで、進化論的に考えると、一人でも多く自分の遺伝子を将来に残すために若くて魅力的な女性とできる限り多くセックスをするということが本来的な願望であり、それに対して女性は自分と生まれてくる子供を長期間にわたって守ってくれる人とセックスをするというのが本来的な願望になるということです。

 

 そう考えると、性愛論でよく言われる「一夫一婦制」は不自然で「一夫多妻制」こそが自然な姿だということは、”甲斐性”のある男性の下に多くの女性が集まることが自然だという結論になるということです。

 

 進化論とかっていうカタい話だけではなく、女性がイクことのメカニズムや、淫乱のウソなど橘さんにしてはかなり下世話な話も多数取り上げられているのですが、そういう下世話な話でありながら、いつもの橘さんのように”ファクト”と”ロジック”を積み上げていく姿勢にカンドーを覚えるとともに、こういう分野でマジメな”ファクト”収集の実績があることに驚かされます。

 

 誰もが興味がありながら、なかなか大っぴらに語ることができない分野に膨大な情報を取得することができます…まあ、知っていたからと言って尊敬されたりモテたりということにつながるとは限りませんが…(笑)