現役時代「侍ハードラー」との異名で知られ2001,2005年の世界陸上においてメダルを獲得され、日本の陸上トラック競技では数少ない世界大会のメダリストである為末さんが語られる「限界」についてのお話です。
よく、”限界というのは自分が作り出すものだ”と言われますが、じゃあそうすればそういう呪縛から逃れられるのか、というのがこの本の主題となります。
日本人が100mでなかなか10秒台を切れなかったのですが、桐生選手が10秒を切った後に続々と9秒台の記録が出たように、あるブレイクスルーの直後にどんどんと記録更新が出てくるのは色んな競技で発生するようで、そういう固定観念的なシバリもあるようですが、そういう呪縛についても語られます。
また、同競技のあこがれの存在だったり、自分自身の成功体験など、競技力の向上に役立つと思われるモノであっても、意外と心理的な「限界」を形成する要因になっているものがあるということを指摘されているのにオドロきます。
そういう心理的な障壁を乗り越えるには、できる限り自分を取り巻くモノから目を遠ざけて、目の前の課題に集中して、それを克服することに専念することが有効だとおっしゃれられていますが、社会的なイキモノである人間にとってはなかなか高いハードルだと思わざるを得ません。
ただ、世界の頂点に立つようなアスリートは、わき目も振らず、自身の競技力の向上に集中できるという”才能”を備えているという側面についても指摘されています。
為末さん自身も、自分自身が超えられたハードルと超えられなかったハードルを思い返されていて、あるべき姿に言及されていますが、あまり周囲を気にし過ぎないことも、それはそれで自分の成果をあげる上での障害になることもあるようで、如何にバランスよく対処していくのかが課題となりそうです。
”限界”という心理的な側面が大きな影響を及ぼす事象について、かなり普遍的な分析をされていて、トップアスリートだけではなく、現状に行き詰まりを感じている人にとって得る所の多い本なんじゃないかと思います。