歴史と視点/司馬遼太郎

 

 

 司馬遼太郎さんといえば「司馬史観」と言われ、歴史の研究家もその影響を無視できない巨大な存在となっていますが、この本はまだそれほど歴史に関する考え方についての著作を出版していなかった昭和47年のものだということです。

 

 この本で珍しいのは、後に『「昭和」という国家』で溜まりにたまったものを吐き出すように語られるまで、あまり取り上げようとしなかった昭和の戦争について取り上げられていて、ご自身の戦車乗りとしての体験を語られています。

 

 当時第一次世界大戦で戦車が戦術として取り入れられるようになったとのことで、日本でも戦車を導入されたのですが、ホントにカタチだけ戦車を導入しただけだったようで、全体的な戦略の中でどう活用するかといったビジョンも無く、とても実際の戦闘に使えるモノではなかったことを告白されていて、本来攻撃を受けた際の屈強さを活用すべき戦車が、フツーの金ヤスリで傷がついてしまうような脆弱なモノだったとのことで、ご自身は戦車の中で戦死してしまう未来を思い浮かべられていたということです。

 

 どうしても半分弱を占めている戦車乗りとしての体験に興味をそそられますが、それ以外では、おおよそ脚光を浴びる機会がないであろう人々について紹介されていて、そういう実際には小説で登場することが無いかも知れないような人々にまでリサーチの手を伸ばされていた程のディテールの積み上げが、司馬さんの描く豊かな世界感の要素なんだなあ、ということを改めて痛感させられます。