日本の大問題/養老孟司、藻谷浩介

 

 

 『バカの壁』の養老先生が『里山資本主義』の藻谷浩介と昨今の日本を取り巻く問題の根っこにあるモノについて対談されたモノをまとめた本です。

 

 元々、教育論についてのことを取り上げた対談になるはずだったのが、日本人論的なモノになったということなのですが、日本人のモノの考え方の変遷が歪みとなって昨今の様々な問題を生み出しているということを語りあかされています。

 

 伝統的に日本人というのはあまり物事をハッキリさせることを避ける傾向にある民族であるにも関わらず、明治維新以後、西欧文明を受け入れる中で、論理的な考え方も受け入れることになり、色んなムリが重なった挙句、西欧的な帝国主義的行動をナゾッて破たんしたのが日中戦争~太平洋戦争と位置付けておられ、身の丈に応じた在り方を見つけて発展したのが戦後の高度経済成長だと指摘されているのが文明論的にナットクできるところです。

 

 ただ、やはり日本語自体があまり論理的な構造になっていない上に、根っこのところでそういう考え方が馴染まない日本人としてはどこかムリを重ねているところが多いということで、西欧的な考え方に根差す都市化に心底馴染めていないじゃないかということで、バランスを取る上で、都市と田舎の「参勤交代」を勧められているのが興味深い所です。

 

 そういう所を含め、かなり日本人のメンタリティに根差した文明論には腑に落ちるところが多いのですが、印象的だったのがAIに関する言及で、AIがティープランニングによって人間の思考を超えるということが言われますが、お二方は人間の思考の中で、無意識的に情報のインプットを制限しているところに着目しておられて、今のところそういう選別ができないAIが人間の思考を超えるとは思えないとされているところが印象的です。

 

 ということで、日本人が西欧的な思考を受け入れる過程での軋轢が様々な問題を生み出しているという仮説が現代の日本における問題の多くの部分を説明できるという論点がかなり興味深いので、是非ご一読の程を!