教養として知っておきたい33の経済理論/大村大次郎

 

 

 『あらゆる領収書は経費で落とせる』というセンセーショナルなタイトルの著書で話題をまいた元国税調査官の大村さんが紹介する、ビジネスパーソンが知っておくべき経済理論について語られた本です。

 

 『33の経済理論』ということで、古典派やケインジアンマネタリストマルクス経済学などマクロ経済学の全体的な領域をカバーする理論から、ゲーム理論囚人のジレンマ、ナッジ理論や返報性の法則など、経済理論というよりも経済主体個別の行動心理学的なモノも含めて、実際のビジネスや普段の生活に役立つようなモノを取り上げられています。

 

 元々経済学というのは、特にマクロ経済学は実際に世の中で起きている経済上の困難を如何にして克服するかということを主眼に理論が組み立てられているので、ある意味本来的に多かれ少なかれ対処療法的な側面があって、この本ではこういう目的で出来上がった理論で、こういう弱点を抱えていて、こういう場面では無力であるということが紹介されているのが分かりやすく、経済学は万能ではありえないことを指摘されていて、常に実際に発生した問題に対応するために新たな理論が開拓されて行っているという観点が新鮮です。

 

 そういう意味合いで近年注目を浴びているピケティの理論も、言ってみればケインジアンマルクス経済学などの先人の功績のオイシイとこ取りといった側面もあるそうで、ある意味正統的な経済学の系譜をたどっているとも言えるようです。

 

 例えばケインジアン的な公共投資の友好性は、あくまでも経済的な便益をもたらすような方向性におカネをかけるからこそ意味があるのであって、日本でよくある公共投資のように、誰も通らないようなところに道路や橋を作るのは、発注を受けた建築会社とそこからワイロを受ける政治家にしか便益が無いワケで、ケインジアン的な有用性は無いと喝破されているのがすがすがしいところです。

 

 あまり経済学に馴染みのない人にもわかりやすく興味を惹くようになっていますし、一定の経済学的な知識がある人にとっても、それぞれの理論の利点と限界を示されているとことが新鮮で、どちらの方にも興味深い内容となっていると思えます。