戦国大名の経済学/川戸貴史

 

 

 戦国時代の貨幣経済についての研究を専門とされている経済学者の方が語られた戦国大名のおカネのやりくりについての本です。

 

 これまでもこのブログで歴史を経済の観点から語る本を紹介してきましたが、この本は経済学を専門にされている方が書かれているだけあって、精緻な根拠に基づく戦国大名の領国経営の様子を紹介されています。

 

 戦をするのにどれくらいおカネがかかるのかというところから始まって、どのようにおカネを調達しているのか、平時にどれくらいおカネがかかっているのかについても語られており、さらにはおそらく専門とされているであろう貨幣の流通の状況なども交えて、戦国大名の領国経営を中心として当時の経済の状況を立体的に提示されいて、かなり当時の状況をリアルに感じることができます。

 

 特に、倭寇の広がりにより明との貿易が停止したため明銭に貨幣の供給を依存していた国内で貨幣の流通が枯渇し、悪銭が蔓延ったことの対策として戦国大名も撰銭の対応に苦慮した様子が紹介されていることと、戦国大名が収入確保のために石見銀山を始めとした鉱山の開発や貿易に取組んだことなど、かなり多岐に渡る経済活動をしていたことに驚きます。

 

 やはりその中でも織田信長豊臣秀吉の革新性というのは際立っており、これまで既得権益を守ることで上納金による収入に依存していた大名が多かったところ、楽市楽座により経済規模を拡大させることで財政を拡充しようとしたというのは斬新な経済政策だと思えます。

 

 江戸時代になって、貨幣の不足や鎖国により米本位制になったことでこの当時よりも経済のしくみ的には後退したという側面はあるようで、戦で疲弊したという側面はありながら、切磋琢磨して経済が進化した側面はあるのかな、と思えました。