機密費外交/井上寿一

 

 

 2018年に公開された官房機密費の公文書を通して、日中戦争に至った経緯を紐解くといった主旨の本です。

 

 日中戦争については、軍部、特に陸軍の暴走といった側面が強調されがちですが、公開された官房機密費の文書は、よりそういう状況を裏付けるものとなっています。

 

 実績としての満州事変にかかる陸軍と外務省の機密費の支出の状況ですが、外務省が983万円だったのにたいし、陸軍省が1億8313万円と実に20倍の支出をしていたということで、外務省が情報提供に対する謝礼にも事欠いていたのに対して、陸軍省が中国の反政府勢力に対してもバンバン活動費を提供していたということで、日中戦争を抑止しようとしていた外務省に対して、戦況を拡大しようとする陸軍省はどんどん内乱の火に油を注いでいたということで、こんなんじゃとてもじゃないんですが、戦争の抑止何て覚束なかったことでしょう…

 

 それ以外にもリットン調査団に対する日中政府双方の設定合戦など、生々しいせめぎ合いも紹介されていて、その緊張感がリアルに伝わってきます。

 

 統帥権をタテに取った暴走だけではなく、資金的な裏付けまで軍部に与えていたようで、やはり軍部にフリーハンドを与えてしまった体制というのは反省として、今後、対外的な交戦力の保持が想定される中、一定の抑止力を設定しておかなければならないことが明確に示されているような気がします。