長らく寺院の取材をされてきた方が、今後の寺院の活性化の在り方について語られた本です。
長らく「葬式仏教」と揶揄されて、葬式でしか存在感を示せない寺院について批判的な見方がありましたが、「家族」というモノが希薄になり日本でも「個人」単位での存在がフツーになるにつれ檀家制度に基盤を置いていた寺院はより苦しい立場になりつつあり、「葬式仏教」どころか存在自体が希薄になりつつあることに仏教界ももっと危機感を持たなければならないということで、叱咤激励も含めた内容となっています。
寺院という場所や僧侶としての社会的な信頼、檀家などの人脈という貴重な財産があるなかで、もっともっと寺院は果たせる社会的な役割があるはずだということで、先進的な取り組みをされている寺院の事例も引きながら紹介されていて、非常に興味深いところです。
墓じまいなどが取りざたされる中での永代供養への取り組みであったり、高齢者への終活なども含めたケアだったりと様々な形態が紹介されているのですが、個人的に一番社会的な意義があって、しかも寺院の役割や将来性といった意味で有望だと思えたのが、「子ども食堂」など経済的に困難を抱える家庭など、苦境にある子どもの居場所となることで、地域的なコミュニティの再形成といった意義もあるでしょうし、そういう活動をすることで再び寺院に人が集まってくるという寺側のメリットもあるということもあり、檀家などのネットワークを使った支援の呼びかけなど、かなり既存の有形無形の資産を十全に活用できる取り組みなのではないかと思えます。
全国の寺院の中では”やる気”のある僧侶も多いようで、こういう成功事例を積極的に啓蒙していくことで、日本人にとって寺院が親しみのある場所になるということは、日本人の精神世界の充実を取り戻す意味でも重要だと思われますので、こういう活動を広めていってほしいものです。