考証鎌倉殿をめぐる人びと/坂井孝一

 

 

 2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の時代考証チーフを務められた方が、鎌倉幕府初期に登場する人物たちを通して、鎌倉幕府の成立の過程を語られた本です。

 

 個人的には、ストーリーテリングの巧みさに、これは大河ドラマの最高傑作かも!?と思えるほどの凄みを感じつつも、あまりに凄惨な権謀術策の連続に耐え切れず、途中離脱してしまいましたが、精緻に張り巡らされた鎌倉幕府成立の策謀がホントに史実なのか!?とすら思えるほどで、うならされたのを思い出します。

 

 『鎌倉殿の13人』自体は、一応鎌倉幕府公式の史書と言われる『吾妻鏡』を下敷きにしていると脚本を担当された三谷幸喜さんはおっしゃられていますが、源頼朝の死去や実朝暗殺の経緯など、かなり重要な事象に関する記載がスッポリ欠落しているなど、史書としてかなり大きな欠陥を抱えていることはよく知られていますが、やはり史書というのは「勝者」に都合のいいように作られるもので、『吾妻鏡』があまりにあからさまに北条得宗家の都合に従って作られていることを指摘されています。

 

 そのバイアスを矯正するためもあって、京都の朝廷に近い視点から見た慈円による『愚管抄』などの古文書も交えて『吾妻鏡』で語られないことも紐解かれているワケですが、鎌倉幕府成立前後において女性の果たされた役割が今日の我々が想像するよりもはるかに大きかったと思われることは印象的です。

 

 特に北条政子の果たした役割は四代目鎌倉殿といっても差し支えのない程の存在感であり、朝廷側の女性との「外交」もあって、「尼将軍」北条政子がいなければ、鎌倉幕府承久の乱で滅びていたに違いありません。

 

 また鎌倉幕府の成立の大きな要因として、頼朝自身が規制の政権の権威に必要以上にすり寄らず、東国武者と朝廷の接点を自身だけに限ったことだというのが印象的で、だからこそ後白河法皇の揺さぶりを乗り切れたんだなぁ、とこの本を読んでいて再認識させられます。

 

 ということで、『鎌倉殿の13人』とこの本は鎌倉幕府の革新性を認識させてくれる斬新な切り口を提示してくれているような気がします。