優しいコミュニケーション/村田和代

 

 

 社会言語学の研究者の方がコミュニケーションの在り方を通して、社会言語学の概要を紹介された本です。

 

 社会言語学というのは「言語(ことば)を社会との関わりで見ようとする言語学の一分野」と定義されていて、それだけではあまりイメージが湧きにくい人が多いような気がするのですが、扱うのが言語だけにかなり我々の生活に密着したモノとなっており、かなり有用な分野なんだと、この本を読むと実感できます。

 

 この本では「異文化」のコミュニケーションについての在り方をかなり紙幅を割いて紹介されているのですが、文字通り外国人を含むコミュニケーションだったり、部署が異なるだけも「異文化」として扱っておられて、その隔たりの大きさによってどのようにコミュニケーションの様態が異なるのかということを、実際のコミュニケーションを録画して内容を分析された結果を紹介されています。

 

 そんな中で如何に早期にいい関係を作り出すか、ということがコミュニケーションを円滑にする上で重要な要素となり、可能な限り「異文化」間で共通する要素を見出すかということがキモとなるようで、それだけに隔たりの大きさによって、必要とされる努力の量が変わってくることを示されています。

 

 また、コロナ禍における国民への訴えにおける円滑な「コミュニケーション」の確保ということで、吉村大阪府知事、小池東京都知事、当時の安倍首相の演説を取り上げておられて、吉村さんが大阪弁を活用して府民に対して「自分ごと」としての対応を訴えることでの効果や、小池さんのキャッチーなキーワードの活用による訴えの効果を賞賛されているのに対し、安倍元首相の堅い演説が高圧感や親しみの欠如を指摘されて効果の低さを示唆されています。

 

 さらにはコミュニケーションを円滑にするためのファシリテーターの役割や、あらかじめ隔たりを想定した上でのコミュニケーションデザインなどの組織的な取り組みにも触れられていて、我々の社会生活や私生活双方における社会言語学のポテンシャルを十全に感じさせてくれる本でした!