戦争の地政学/篠田英朗

 

 

 どちらかというと実際の現象面から語られることの多い地政学ですが、専門家の観点で理論の方から地政学を語ろうとした本です。

 

 実は地政学というのは、イギリスを起点とする英米地政学とドイツを起点とする大陸系地政学という二つの大きな潮流があるということなのですが、大体昨今日本で語られている「地政学」は英米系に基づいているということで、シー・パワー、ランド・パワーという用語は英米系のモノなんだそうです。

 

 なぜ日本においては英米系一辺倒になったかということが興味深く、戦前の日本が中国に侵攻したり、東南アジアに手を伸ばそうとしたりしたことの理論的な背景に、ヒトラー地政学的な参謀を務めていた大陸系の開祖ハウスホーファーという人がいて、当時ドイツに接近しつつあった日本の軍部がそういった大陸系地政学の影響の下に戦略を展開したということで、戦後GHQによって大陸系地政学を唱える学者も戦犯として訴追しようとした動きがあり、そこから一気にしぼんでしまったようです。

 

 モチロン、それぞれ説明できるところとできないところがあって、一長一短なワケですが、親しみのある英米系が発展した端緒である、名誉ある孤立を貫いていた大英帝国が極東の新興国日英同盟を結んだことを論理的に説明したことや、アメリカがモンロー主義から真珠湾攻撃を契機に、のちの「世界の警察」となるにいたったことなど、海洋国を中心とした事象についてはよく説明できているのに対し、ドイツやソ連などいわゆるランドパワーの動機について語ることについては大陸系の方が妥当性があるというのはなんとなく理解できます。(なお、大陸系ではランド・パワーとは言わないそうなのですが…)

 

 ただ、その双方でも説明できないのが台頭して以降の中国だということで、コケる前のドイツとの類似を語る向きもありますが、未だシー・パワーとランド・パワーの双子という評価もありますが、ランド・パワーとされながら海洋進出を目指す中国に、ランド・パワーとシー・パワーは両立しないという「定説」がどこまで通用するんだろう…というあたりが気になります。