2021年に出版された手嶋龍一さんのインテリジェンス小説の最新刊で、今回も中国の空母「遼寧」の改修や中国人による日本の資産買いあさりなどのテーマが扱われますが、今回のテーマはそういったインテリジェンス的な事象というよりも、インテリジェンス機関としての公安調査庁の活動が主要なテーマとなっているようです。
以前、手嶋さんは”知の怪人”佐藤優さんとの対談本でタイトルもズバリ『公安調査庁』を出版されていますが、インテリジェンス機関という組織の性質上、それほど活動の詳細は詳らかにされてはおりませんが、一般的な知名度では内閣調査室に劣りますが、実は公安調査庁の方が本来のインテリジェンス機関としての調査を手掛けられているということです。
以前、セキュリティに関する展示会で公安調査庁がブースを出されているのに驚いて、ブースにいらっしゃった公安調査庁の方と会話をしたことがあって、知名度の低さについてグチられていて、そういった広報活動にも力を入れられているということでしたが、様々な意味でのセキュリティ維持という目的からすると、表向きの活動と裏側の活動があるようで、この本の最後に主人公が表向き公安調査庁を退職したことにして、ウラの活動に従事するといったことにされていますが、手嶋さんがそういう描写をされるということは、実際に同様の潜伏活動のようなこともされるんだろうなぁ…と思わされます。
この本では主人公は、一般的なインテリジェンス・エージェントにありがちなキレ者的な描かれ方ではなく、どこか印象に残りにくい人物像とされていますが、そういった人も潜伏活動をする上では重要な資質だということにも驚かされます。
この小説の描写がどれくらい実際の活動を反映しているのかはわかりませんが、自衛隊のような武器の携行や、警察のような逮捕権もない中、本の中でも公安警察との縄張り争い的な描写もありますが、ひそかな活躍への期待を掻き立てられるモノです。