旅行の世界史/森貴史

 

 

 ドイツ文学の研究者の方が紹介される旅行を取り巻く世界史についての本です。

 

 「旅行」だけを取り出して世界史を語るってどうなんだろう…と思いつつ手に取ってみたのですが、これが意外や意外、かなり歴史の推移って旅行の要素をはらんでいるんだなぁ、ということを再発見させられるモノでした。

 

 ただ、あまり十字軍の遠征など、戦争での「旅行」を除けば、政治的な要素はそれほど全面的に前に出てこずに、経済面での「世界史」がクローズアップされてくるのが意外で、特に技術の進化が旅行と不即不離の関係にあることを認識させられたのが目からウロコでした。

 

 ドイツ文学専門の方が書かれていて、文献に現れたモノを中心に取り上げられているので、グレートジャーニーなどは取り上げられていませんが、最古の物語と言われる『ギルガメッシュ叙事詩』からすでに旅行についての言及があって、人類が太古から旅行が重要な要素だったことが伺えます。

 

 その後、馬車だったり道路の整備だったり、さらに時代が進んで蒸気機関の発明に伴う鉄道網の広がりや、内燃機関の発明に伴う自動車の普及、飛行機の発明、宇宙空間への広がりなど、科学技術の発展が旅行の範囲を広げていく様子を辿られていることに、ちょっとしたカンドーすら覚えます。

 

 ということで、「遠くへ行きたい」という人間の本能的な感覚が科学技術の進展をもたらしてきたんじゃないかとすら思えるほど、旅行というのが人類の進化にも不可欠なモノだということを認識させられた次第です。