後醍醐天皇/兵藤裕己

 

後醍醐天皇 (岩波新書)

後醍醐天皇 (岩波新書)

  • 作者:兵藤 裕己
  • 発売日: 2018/04/21
  • メディア: 新書
 

 

 昨日に引き続き、出口さんの『0から学ぶ「日本史」講義 中世篇』に触発されての中世史本で、今回は建武の新政です。

 

 出口さんは後醍醐天皇の新政については、ダメダメみたいな印象を受ける書き方をされていましたが、あまりにも観念的に過ぎたモノで、それを実行する体制が全くといいほど整えられなかったということがこの本でも触れられています。

 

 元々後醍醐天皇が倒幕を志したのは、宋代の政治思想である宋学に深く傾倒されたからということで、結果として倒幕を果たしてからはその考えに基づいた天皇自らが政治を行う”天皇親政”を始めましたが、宋朝がカンペキとも言える官僚制度が整備され、皇帝が思ったような施政のための態勢が整えられていましたが、後醍醐天皇の下には、既に政権から離れて100年以上を経過した公家はいたものの、天皇親政の考え方から、その公家すらも距離を置いていて、実際には倒幕に貢献した足利尊氏らが事態を収拾するしかなかったというのが新政の失敗の理由のようです。

 

 ただ、天皇がすべての人民の上に、中間的な死配送を経ずに直接君臨するという考え方は「新し過ぎた」という見方もあるようで、後醍醐天皇の思想が、遠く江戸時代になって水戸藩の『大日本史』編纂におけるベースとなる考え方となったようで、南朝正統論はそこから来ているようです。(まあ、水戸藩南朝に肩入れするのは、新田家を出自だと自称する徳川家が、後醍醐天皇を裏切った足利家を倒したところに政権の正統性を見出そうという側面もあったようですが…)

 

 さらにその水戸学が尊王攘夷運動徳川幕府の倒幕の思想的なバックグラウンドとなり、ある意味後醍醐天皇が理想とするような政体が500年余りの時を経て実現したという見方もできるように、後醍醐天皇の影響力が壮大な展開を見せたと思うと、ちょっとカンドー的でした。