人生の目的/五木寛之

 

人生の目的 (幻冬舎文庫)

人生の目的 (幻冬舎文庫)

  • 作者:五木 寛之
  • 発売日: 2000/11/01
  • メディア: 文庫
 

 

 昨日に引き続き五木寛之さんのエッセイです。

 

 こちらは、1999年に一旦出版された本を再編して出版されたモノだということです。

 

 『親鸞』など僧侶を題材にした小説を出版されていただけあって、これまで紹介したエッセイの中でも仏教的なエッセンスを織り交ぜることがあったのですが、こちらは『歎異抄』など親鸞の言葉を全面的にフィーチャーしたモノとなっています。

 

 『人生の目的』とのタイトルなのですが、多くの人は確たる目的を持っていないんじゃないか、ということを指摘されていますが、それ自体その人が無為に人生を送っているからと言うワケではなく、運命や宿命に翻弄される中で、なかなか確固たる目的を維持し続けるのが難しいんじゃないかとおっしゃいます。

 

 特に肉親との「絆」について触れられているのですが、東日本大震災以降やたらと「絆」が美化される傾向が強いんですが、必ずしもそれがいい方向にばかり作用するワケではないということで、母親に捨てられた父子が心中をした事例が取り上げられていて、父親に従わざるを得なかった子供の運命について語られています。

 

 そういった中で結論としてあとがきに、「人生の目的」は「人生の目的を見つけること」なんじゃないかというトートロジー的なことをおっしゃっていますが、それでもミョーにナットクしてしまうんですが、如何でしょう!?

下山の思想/五木寛之

 

下山の思想 (幻冬舎新書)

下山の思想 (幻冬舎新書)

  • 作者:五木 寛之
  • 発売日: 2011/12/09
  • メディア: 新書
 

 

 『蓮如』や『親鸞』など高僧を題材にした小説でも知られ、そういった仏教的な考えに基づいたエッセイなども執筆されている五木寛之さんのエッセイ集です。

 

 この本は東日本大震災前後に書かれたエッセイをまとめた本だということで、ある程度テーマごとに章立てをしてまとめられてはいるのですが、結構パートごとにテーマがかけ離れていることもあって、ちょっと戸惑う部分もあるのですが、「下山」という大きなテーマが底流に流れているようです。

 

 以前紹介した『孤独のすすめ』でも触れられているのですが、一生の中で死ぬまで一貫して上昇気流に乗り続けることなんて基本的にはないはずで、登ったらいつかは下らなくてはいけない日が来るということを認識しておいた方がよい、ということを再三おっしゃられていて、それが認識できない人が少なからずいるからということもあって、日本での自殺率は上昇の一途にあるということを指摘されています。

 

 そういうのって、”足るを知る”ではないですが、ある意味での諦念というか、多くの人は人生の波みたいなモノがあるというのはリクツではわかるはずなのですが、自分にとっては下ることは許せないというか、プライドが傷つくというか、そういう認識を持ってしまうことがあるようなのですが、ある程度のレベルでそういう状況を受け入れないと、かなり不幸なことになってしまうんじゃないかと、この本を読んでいると感じます。

不安をなくす技術/嶋津良智

 

不安をなくす技術 (フォレスト2545新書)

不安をなくす技術 (フォレスト2545新書)

  • 作者:嶋津良智
  • 発売日: 2015/01/07
  • メディア: 新書
 

 

 『怒らない技術』などの著書で知られる嶋津さんが、不安を解消するための方法論を語られた本です。

 

 日々、我々は多かれ少なかれ”不安”を抱えて生活を送っていることだと思いますが、その”不安”を適切に扱う術を持っていないと、極端なハナシ、自殺に追い込まれることすらあり得るワケです。

 

 ”不安”がなぜそんなに厄介かというと、「ぼんやり」していてその正体が明確に分かっていないからだとおっしゃいます。

 

 ということで、”不安”を解消するための第一歩として、「不安を眺める」ことで、その不安の正体がどういうモノなのかを見極める必要があるということです。

 

 そのためには、不安に思っていることを書きだしてみるとかという手段で、まずは棚卸しをするということです。

 

 その上で、解決策を求めたり、その不安自体の影響が大きくないと思ったらやり過ごしたりという、それぞれの不安に対する対応を決めていくということなのですが、大体の不安はこの時点で、そんなに大したことが無いものだとわかることが多いようです。

 

 とにかく不安を解消もしくは軽減しようと思ったら、何らかのカタチで行動をとるということがキモなんだそうで、大体の不安は忘れるか、気が付いたら解決しているかということで、とにかくモヤモヤしている状態が一番問題だということですので、そういう火は早めに消しておきましょう!

「自分らしさ」はいらない/松浦弥太郎

 

 

 久々に松浦さんの本です。

 

 パッと見、タイトルだけ見ると「自分探し」的な内容に思えますが、実はこの本”仕事術”的な内容でして、とは言いながら、松浦さんのことですがありがちな"仕事術"というよりも、仕事に臨むうえでの方針や姿勢みたいなものを語られたモノになっています。

 

 とかく”仕事術”的な自己啓発書だと、効率とかノウハウとか、やたらとアタマを使うことばかりにフォーカスしがちですが、実はアタマとココロのバランスというモノを意識した方がいいんじゃないの!?というのが、この本のメインテーマとなっているようです。

 

 確かに言われてみてば、色々と突き詰めて考えても、最終的に決断するとなると理論の積み上げだけでは決められないワケで、最後にはココロの問題となりますし、やはり仕事というのは生きた人間を相手にすることが多いことから、それなりにココロを砕かなくてはいけない場面が多いはずです。

 

 ということで、もっとココロの働きを重視した方が仕事がスムーズに進むんじゃないかというは、言われてみればそうですよね!?って感じです。

 

 そういう意味で、あんまりアタマでっかちになって、自分を縛り付けなくていいんじゃない!?というのがタイトルの『「自分らしさ」はいらいない』ということのようで、それでこそ柔軟に目の前のことに適切に対応する秘訣なのかも知れないですね。

池上彰と考える、仏教って何ですか

 

池上彰と考える仏教って何ですか?文庫版

池上彰と考える仏教って何ですか?文庫版

  • 作者:池上彰
  • 発売日: 2014/10/09
  • メディア: 文庫
 

 

 仏教がマイブームだということをお話しましたが、あるテーマの概況を知るのなら、やっぱり池上さんでしょ!?ということで、池上さんにこんな著書があると知って手に取ってみました。

 

 さすがは池上さん、期待以上に仏教の誕生から、基本的な考え方、日本での展開など、知りたいと思っていた内容がくまなく網羅されていて、かつチベット仏教の法王ダライ・ラマ14世との対談まで掲載されていたのには驚きました!

 

 現在の日本では仏教というと葬式や法事のことを思い浮かべることが多いとは思いますが、やはり江戸時代の檀家制度の影響が大きいようで、本来は自己救済というか、自身で問題を解決しようというところで、他の三大宗教であるキリスト教イスラム教と大きく異なる点であり、そういう絶対神を前提にしないところが、他の宗教と比べて論理的な性格が強いということで、科学的な進化との親和性も高いという指摘は、結構オドロキでした。

 

 ダライ・ラマ14世との対談で印象的だったのが、やはりその論理性で、自身の置かれた状況についても、かなり厳しい状況に置かれているはずなのに悲観し過ぎるでもなく、だからといって楽観しすぎるのでもなく、そのプレーンな姿勢が、より原始仏教に近いと言われるチベット仏教の在り方を認識させられた次第でした。

 

 オウム真理教がインテリ層に指示を受けたことや、昨今の仏教の思想をベースとした自己啓発書のヒットなど、自助的な考え方というのはかなり求められるところが多いと感じますし、日本の仏教界も葬式仏教だけじゃなくて、そういう方向に目を向けて行った方がいいんじゃないかと思わされるモノでした。

マイ仏教/みうらじゅん

 

マイ仏教 (新潮新書)

マイ仏教 (新潮新書)

 

 

 小池龍之介さんの諸作をキッカケとして、仏教が最近のマイブームだったりしますが、その「マイブーム」というコトバを生み出したみうらじゅんさんも仏教に造詣が深かったということを思い出して、この本を手に取ってみました。

 

 みうらさんは仏像好きなことはワタクシも何となく認識していて、いとうせいこうさんとの仏像に関する共著もあるということですが、その仏像好きが実は小学校の頃からだったということがこの本で紹介されていて驚かされますが、元々怪獣好きだったみうらさんが、仏像を見て怪獣と同様のカッコよさを感じたのがキッカケだということです。

 

 その後、住職になりたいと思って仏教系の学校に進むまでにイレ込んだみうらさんで、結果として僧職に就かれることはなかったワケですが、少年時代から親しんだ仏教の考え方が身に沁みついているようで、その後いとうせいこうさんとの出会いで、仏教への想いが再点火されたようです。

 

 美大の受験で浪人をされていた頃に、石膏像を落として壊してしまって「諸行無常」を感じたり、描いていたデッサンに「色即是空」を見出したりと、仏教の世界を離れて美大を目指している時期も、折に触れて仏教的な感覚を思い出されていたようです。

 

 また、最近も奥さんに用事を頼まれた際に、「なんで俺が!?」とメンドくさがるのではなくて、そういう自我を抑えることを「僕滅運動」とおっしゃっているのは、「マイブーム」や「ゆるキャラ」というコトバを生み出したみうらさんの面目躍如な感じがしてウケました。

 

 それ以外にもフツーの生活の中に、たとえみうらさんのように仏教にイレ込んでいなくても、仏教的な要素がふんだんにあることを、ご自身の生活を振り返って紹介されており、やはり日本人の生活のあらゆる側面に仏教の考えが息づいていることを改めて認識させてくれます。

 

 結構コミカルな表現に眉を顰める向きもあるようですが、みうらさんがおっしゃるように日々の暮らしの中に仏教の考え方が息づいているということを再認識するのは、多くの人に取って意義があることなんじゃないかと思いますし、そういう意味で個人的には非常にタメになる本だったと思います。

ニッポン未完の民主主義/池上彰、佐藤優

 

 

 池上さんと佐藤さんの対談本の最新刊ですが、今回のテーマは「民主主義」で、佐藤さんからの提案だということです。

 

 BrExitやトランプ政権など一連のポピュリズム的な現象の世界的な広がりから、コロナ禍において、民主主義を標榜する国家が、中国など全体主義的な国家と比較して感染対策が上手く行かず多くの死者を出したことなどから、かつてないほど民主主義という体制自体への疑問が向けられていることもあって、このテーマを提案されたということです。

 

 なぜ、そうなったこということを紐解くために、そもそも民主主義がどういうモノなのかということを解説されているのですが、古くはアテナイから始まって絶対王政を打倒して民主主義を樹立した17~18世紀を経た経緯をたどりながら民主主義の機能を探ります。

 

 民主主義を意味するDemocracyは元々「衆愚政治」と訳されて、多くの民衆によってえらばれる政策は、得てして”愚かな”選択に基づくものが多くなる危険性というのが早くから指摘されており、そういう民主主義の蓋然的なリスクが昨今ポピュリズムとして表れているということのようです。

 

 そういうリスクを避ける手段として、手続きの慎重さというモノが求められて、アメリカの大統領選がその表れだと指摘されていますが、それでもトランプのようなハチャメチャな指導者が現れてしまうところに、民主主義の制度疲労とも言えるような状況になってしまっているような気がします。

 

 さらに日本の政治状況についてお二方が深い憂慮を示しているのが、7年余りにわたる安倍政権によって、政権が増長してしまい、選挙で勝っているんだから何をしてもいいだろう、というような感覚でいるんじゃないかということを指摘しておられ、菅政権もそういう姿勢を受け継いでいるということで、相当民主主義としては危険な状態にあるということです。

 

 それだけに我々としては、少なくとも健全なチェック機能を回復するためにも、キチンと批判的な投票をして行かなくてはならないようです。