本当の翻訳の話をしよう/村上春樹、柴田元幸

 

 

 アメリカ文学を中心として多くの翻訳を手掛けられていることでも知られる作家村上春樹さんと、村上さんの作品の英訳を手掛けられていることでも知られる翻訳家の柴田元幸さんが、アメリカ文学の翻訳について語られた本です。

 

 ワタクシが手に取ったのが増補版ということで、お二方が対談をされたり、それぞれが翻訳について語られた講演なども盛り込まれているので、500ページを超える大著となっている上に、個人的にはあまりなじみが深くないアメリカ文学について延々と語れているので、多少へ辟易とした部分も無きにしも非ずですが、お二方の翻訳に取り組むにあたっての考え方がセキララに語られているのが非常に興味深い所です。

 

 元々作家である村上さんと、翻訳の専門家として翻訳を手掛ける柴田さんの翻訳のアプローチの違いが語られているのですが、当然文学の翻訳というのは原作に書かれていることに正確に翻訳することが原則ではあるのですが、そういうテクニカルな部分に拘泥しすぎてしまうと、却ってわかりにくくなるということが起こりがちだということで、意訳というかコンセプトを正確に伝えるという部分に主眼を置くという考え方もあるようで、そういう意味では作家である村上さんにはかなわないと柴田さんがボヤいているところが興味深く、翻訳の奥深さを感じさせます。

 

 そういう意味で、正確にニュアンスを伝えるという目的を果たすためには、原作が書かれた時の時代背景と、翻訳~出版する時点での時代背景との差異なども考慮する必要がありながらも、説明くさくなると作品が持つ流れを損なってしまいかねないというところもあり、そういう矛盾を克服しながらも、海外の優れた作品を日本語で紹介してくれる翻訳者のお仕事の尊さを改めて痛感させられる興味深い内容となっていますので、英文学に興味のある方は是非ともご一読の程を!?