山岳文学の草分けとも言われる新田次郎さんのご子息で数学者でありながら、2005年に出版した日本の行く末を案じた『国家の品格』が、当時社会現象とも言える反響を呼んだ藤原正彦さんの対談集です。
この本は『国家の品格』の大ヒットを受けての対談ということで、齋藤孝さん、五木寛之さん、阿川弘之さん、ビートたけしさんなど豪華な顔ぶれで、作家デビュー直後の”知の怪人”佐藤優さんとも参加されているところが個人的には目を引きます。
基本的に『国家の品格』の趣旨をベースとした対談が多くなっていますが、多くの対談において、日本の教育における問題が提起されていて、特に生徒たちに本を読ませることが少なくなっていることを問題視されています。
特に『声に出して読みたい日本語』が世に知られるキッカケとなった齋藤孝さんとの対談が印象的で、音読をさせればかなり難しいと思われる本でも、小学校低学年の子供たちが、その本の世界に入っていけるほどの読解力を発揮するにも関わらず、多くの子どもたちが読書の機会すらないことから、読解力を身に付ける機会がなくなってしまい、基本的なコミュニケーション能力すらアヤシくなってしまうリスクを憂いておられています。
特にグローバル、グローバルということで英語の修得が強調されますが、むしろ日本語をキチンと身に付けずにいくら英語を勉強しても、そもそも基本的なコミュニケーション能力が備わっていなければ、コミュニケーションが成り立たないということを、日本の教育行政にかかわらう人たちは、認識し直した方がいいということを、どの対談でも再三強調されているのが非常に印象的でした。
この本の出版から15年以上が経っていますが、むしろ藤原さんが憂慮されていた方向に暴走しているようにしか見えず、どんどん日本人の人間としての質が低下して行っていないか、かなり暗澹たるキモチにさせられるものでした。