80歳、何かをあきらめ、何もあきらめない/萩本欽一

 

 

  今や伝説のコメディアンであり、ここ10年くらいはシニア向けの自己啓発書的な書籍も出されている”欽ちゃん”こと萩本欽一さんが、ご自身が80歳を迎えたこともあり、80歳代の処世を語られた本です。

 

 まあ、そういってしまうと堅苦しいのですが、そこは欽ちゃんらしく軽やかな筆勢で語られて、半生を振り返るような内容にもなっていることもあって、小中学生の頃は欽ちゃんの番組をよく見ていた現在50歳代以上からすると、かなり懐かしくその頃のことを思い出します。

 

 ただ、欽ちゃんは40歳代位になって、段々ご自身が手掛ける番組の斜陽を感じた途端、段々とコメディアンとしての”終活”を進めていって、その後大学に入られるワケですが、そういう成功者としての地位をカンタンに手放すことのできる軽やかさは、驚嘆しかありません。

 

 それもこれも、欽ちゃんの奥さまがかなりデキた人だったようで、浅草での修業時代に憧れのダンサーだった人を、成功後に追いかけて探し出して、拝み倒して結婚してもらったようで、その最期の別れのことまで詳しく紹介されているのですが、欽ちゃん十進が最も多忙だった時期もしっかりと子育てをされて、欽ちゃんを含めてかなり羨ましい感じの親子関係を築かれていたのは、この本で紹介される奥さまの最期を紹介しているところでイタイほど感じられます。

 

 欽ちゃん自身、ミョーに大物感をひけらかすのではなく、セミリタイアしての大学入学で仏教を先行させていたことでうかがえるように、どこか”悟った”ところがあったからかなのかも知れませんが、そういう欲の少なさというのが、老境に入ったころには重要な姿勢なのかも知れません。