歴史問題ハンドブック/東郷和彦、波多野澄雄編

 

 

 先日、”知の怪人”佐藤優さんの外務省在勤時の上司だった東郷和彦さんが退官後に研究者として太平洋戦争時の歴史問題について語られた著書である『歴史と外交』を紹介しましたが、この本は日中戦争、太平洋戦争が引き起こし、長らく懸案となっている歴史問題の中で31のトピックについてそれぞれの研究者がその概要を紹介された本です。

 

 それにしても日中戦争、太平洋戦争が様々な禍根を残しているということは日本人としては意識しないワケには行かないところなのですが、ここまで広範に複雑な影響を及ぼしているということに改めて驚きを禁じ得ません。

 

  中には原爆投下の法的責任やシベリア抑留の賠償問題、東京裁判の正統性などどちらかというと日本が被害者としての議論もあるのですが、大半は加害者としてのスタンスの問題で、従軍慰安婦問題や徴用工訴訟問題、南京大虐殺などよく知られたトピックもあるのですが、在外被爆者や朝鮮人・台湾人の旧日本兵の問題、東南アジア侵略時の労務者問題など多岐に渡る問題を抱えており、その多くについて日本は積極的に問題解決に取組んでおらず、いわば頬被りをした状態が続いているということです。

 

 少なくとも平和国家を標榜するのであれば、これらの問題に対して一定の解決の指針を示すべきなのでしょうが、ビルマなど賠償をすることによって外交関係やビジネスの展開などのメリットが見込める一部の国には賠償に応じたモノの大半の国に対してはそういったスタンスを取っておらず、中国や韓国の批判もむべなるかな…ということになってしまうことが、この本を読むとよくわかります。

 

 また、天皇の戦争責任や、よく言われるポツダム宣言受諾「無条件降伏」と天皇制の継続による国体の護持など、法的政治的に複雑かつあいまいな問題についてもわかりやすく説明されていて、多くの日本人にとってこういった問題をしっかり認識し直すこと、そしてどう対処していくべきかを考えることが平和国家としての第一歩だったはずなのですが、どうやら随分我々はボタンを掛け違えてしまったようです…