戦争犯罪とは何か/藤田久一

 

 

 ロシアのウクライナ侵攻以降、ニュースで”戦争犯罪"というコトバを耳にするようになったことに気づかれた方も少なくないとは思いますが、書店でこの本が面出しのディスプレイをされていたのにちょっとオドロキました。

 

 というのもこの本は1995年の出版と30年近く前のモノであり、著者の藤田先生ご自身もなくなられて10年となるにも関わらず、戦争犯罪の参考図書として改めて脚光を浴びているということに、藤田先生の元ゼミ生としては感慨を覚えずにはいられません。

 

 人の殺し合いである戦争に犯罪もクソもないだろう、と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、近代国際法の萌芽と言われる三十年戦争講和条約である1648年のウェストファリア条約以降、国際法の世界では如何にして戦争を制限するかということをテーマとして発展してきており、この本ではそういう戦争の中で「犯罪」とされる概念の発展を紹介されています。

 

 科学技術の発展に伴う兵器の進化により戦争における被害も甚大となり、第一次世界大戦第二次世界大戦を経て、大量破壊兵器化学兵器などの残虐な兵器の開発も進み、戦争自体を防止する必要性とともに、戦争の中での戦闘行為を制限することによって戦争での被害を可能な限り少なくしようというのが、戦争犯罪を判断するための法規である戦争法、国際人道法というワケです。

 

 戦争犯罪で特徴的なのは、従来国際法は国家を法律の主体としていて、個人は対象となっていなかったのですが、国際人道法の有効性を確保するために個人を処罰の対象としようという考え方が出てきたということです。

 

 その端緒が、第二次世界大戦後のニュルンベルク裁判と東京裁判で、事後法に基づく戦勝国による裁きということで、近代法の概念上、未だに議論がある裁判ですが、国際法の規定により個人が処罰されたということで画期的な裁判であったことは間違いありません。

 

 ただ、本来であれば戦勝国戦争犯罪も裁かれるべきところが判断主体が無く放置されていたこともあって、国際刑事裁判所の設立へとつながるワケですが、1998年の設立なので、この本ではその準備段階までがカバー範囲となります。

 

 そういった進化を遂げながら、ロシアのウクライナ侵攻でも数々の戦争犯罪の形跡が見られるワケで、侵攻自体がどのようなカタチで終息するかにもよるのでしょうけど、今回の戦闘における戦争犯罪がどのような形で裁かれるのかについて、注目しておきたいと思います。