ウクライナ戦争をどう終わらせるか/東大作

 

 

 NHKのディレクターから国際関係学の研究者へと異色の転身をされた方が、ロシアのウクライナ侵攻の「落し所」を語られた本です。

 

 泥沼の長期戦の様相を呈し、双方とも振り上げた拳の納め所を失ってしまった感があるウクライナ侵攻ですが、侵攻開始当初にはいくつかの「落し所」があったと指摘されています。

 

 それが進行が始まって1か月ほどの2022年3月に、新ロシア住民が大勢を占める東部4州および2014年に併合したクリミアの帰属については一旦棚上げにして、とりあえずゼレンスキー大統領がブチ上げたNATO加盟を凍結することで、ほぼほぼ合意まで行っていたようですが、その時期のブチャにおけるロシアによる一般市民の虐殺で、ウクライナとしては合意できない状況になってしまい、その後ウクライナが予想外の善戦をする中で、クリミアまでも取り戻すまで…とハードルを上げてしまって、落し所を失った状態となって今日に至っているという状況のようです。

 

 この本では、かつての米ソなど、傀儡政権の樹立を目指した干渉がすべて大国の撤退という結果に終わり、目的を果たせなかったということを指摘されているのが興味深いところで、このままの状況を見ているといずれそういう結果になるであろうということは見通せるのですが、ウクライナがハードルを上げたことでそこまでたどり着くメドがつかないということのようです。

 

 支援をする欧米としても、クリミアまでを回復することは現実的な解とは考えていないと思われますが、ここまで戦局が長期化するとウクライナNATO加盟断念だけでは国内が治まらないであろうロシアと、東部四州の取り扱いについてのウクライナへの説得でコトを収めたいところなんでしょうが…ウクライナがナットクする材料は少なそうです。

 

 また興味深い指摘としては、プーチン戦争犯罪での訴追の件ですが、平和についての志向がお花畑な多くの日本人は、徹底した訴追を支持するんでしょうけど、そういう風に追い詰めようとすることが却って戦争終結に向けたプロセスの大きな障害になりかねないことを指摘されていて、現実的な国際関係の研究者としての冷静な指摘だと思えます。

 

 日本では未だに攻め込んだロシアを絶対的な悪、攻め込まれたウクライナを可哀そうな善とする単純な構図が提示されがちですが、そういった二元論が和平を遠ざけている側面があるということを意識しておくべきなのかもしれません。