よみがえる戦略的思考/佐藤優

 

 

 ロシアによるウクライナ侵攻以降、対ロシア外交のスペシャリストとしてかなり見解を求められたはずなのですが、個人的にはあまりに抑制的とも思えるほど見解の表出を制限してこられた見受けられる佐藤さんですが、この本を読むとそういうスタンスが何となく理解できたような気がします。

 

 というのも、日本の政府やメディアの見解を見ると、ただ単に侵攻したロシアの蛮行を踏まえての、ウクライナへの肩入れ一辺倒に見受けられますが、日本の国益を考えると、それが果たして妥当な姿勢なのかということは、いったん立ち止まって考えてみたほうがいいのではないかということを指摘されています。

 

 安部元首相の在任中には、反知性的なスタンスを論難されることが多かった”知の怪人”佐藤優さんですが、対ロシア外交については、ロシアと対立姿勢を取りがちな絶対的な同盟国であるアメリカを向こうに回して、長期的な観点から中国の台頭に対して、ロシアとの共同戦線をとるという独自の外交姿勢を高く評価されていて、ロシアと対抗することが必ずしも日本の国益にかなうことではないということを理解されていたようですが、岸田政権では子供っぽい正義感に引きずられているのか、西欧諸国のロシア包囲網の片棒を担いだ挙句、せっかくのロシア首脳との信頼関係を不意にしてしまい、手にできたはずの仲介というカードをみすみすのがしてしまったんじゃないかとおっしゃられているような気がします。

 

 さらには、日本における報道ではなかなか気づきにくいのですが、むしろ反ロシアを標榜する西欧諸国の方が世界的にみると孤立しているのではないかと指摘されていることは、アフリカ諸国の国連における投票行動が裏付けているのではないかと思われます。

 

 せっかく日本は独自の存在感を示す機会がありながらも、外交が得意という根拠のない(というか的外れな…)自負を持つ岸田氏が台無しにしているような気がしてなりません。