世界インフレの謎/渡辺努

 

 

 世界的なインフレが蔓延していますが、インフレの研究を専門にされている経済学者の方がその原因を探った本です。

 

 経済の予測というのは、専門家である経済学者であってもピタリと行く末を当てることは稀で、そういうことからも経済学について科学たる資格を欠くといった揶揄も見られるようですが、今回の世界的なインフレについても経済学者としても意外な現象だったようです。

 

 というのも経済のグローバル化の進展で資材の調達の最適化が進み、中には最早インフレが起こることは無いと豪語するエコノミストすらいたようです。

 

 それでインフレが世界的な規模でおこったというのは、ロシアのウクライナ侵攻が原因!?と思う向きは多いでしょうが、エコノミストのコンセンサスとしてはそれが主要因ではないということで、というのも今回の世界インフレとされるモノはロシアのウクライナ侵攻以前の2021年3月くらいに始まっていたということです。

 

 じゃあ、コロナ禍が原因!?ということになるのですが、それも主要因ではないようで、エコノミストの大半はコロナ禍が経済に及ぼした影響はそれほど大きくないと評価しているようで、むしろデフレに振れる可能性も指摘されていたようですが、実際にはコロナ禍後も職場に復帰しようとしない労働者が一定数いたことで欧米での賃金高騰を起因とするインフレの傾向はあったようです。

 

 ただそれよりも大きな要因というのが、行き過ぎた経済のグローバル化からの揺り戻しといった側面が強くあったようで、そこを起因としてコロナ禍やウクライナ侵攻が拍車をかけたというのが実像に近いようです。

 

 しかも、ウクライナ侵攻の長期化で経済圏の分断が進む中、西欧諸国がインフレを鎮静化させる処方箋を持たないようです。

 

 ただ、昨今のコストインフレであらゆるモノの値上げが続く中、意外に感じるかもしれませんが、日本でのインフレ率というのは世界最低水準なんだそうで、その原因はやはり賃金の上昇が伴わないため、そうカンタンには価格も上げられないからだということです。

 

 それほどインフレ率が上がらないからいいんじゃない!?と思われるかも知れませんが、低すぎるインフレ率も問題なんだそうで、でも相変わらずそういう状況に対する施策が伴わないままなんですよねぇ…