天路の旅人/沢木耕太郎

 

 

 『深夜特急』など旅に関する印象的な著作で知られる沢木耕太郎さんが、戦時中に密偵としてチベットなど中国の奥地からインドまで至られた方の道程を追われた著書です。

 

 主役となる西川さんがたどられた軌跡が沢木さんご自身が『深夜特急』の旅と重なることも執筆のキッカケの一端となったのかも知れませんが、あまりにも壮絶なその行程を知るにつけ、同じく類まれなる旅人である沢木さんとしては書かずにおれなかったというのが正直なところではないでしょうか!?

 

 ただ、題材をとらえられてから実際の執筆に至るまでかなり長くの時間をかけることが通例となった沢木さんですが、かなり早くから西川さんに接触されて、執筆を前提としてかなり親密な関係を築かれて、毎月のようにインタビューを重ねられた時期があったようなのですが、一定の成果を見られたのか、インタビューを中断されて1年余りがたった際に、西川さんが亡くなられるという事態になってしまい、逆に執筆へのモチベーションにつながったという側面があったようです。

 

 570ページ余り物大著で、それなりに読みごたえはあるものの、ワタクシもこの本を旅行の途上で読んでいたこともあって、その旅程を追っていたワケですが、時節柄、状況もあってかなり壮絶な道程で、周囲や時世に翻弄されているにも関わらず、実直に淡々と前進する姿に感動を覚えます。

 

 結局はご本人が望まぬ形で帰国を強いられることにはなるのですが、そういう姿が『深夜特急』での沢木さんがこのまま旅に流さて変えることがないのではないかと逡巡する姿とビミョーに重なって、そのことが沢木ファンとしては感慨深いところです。

 

 ボリューム的にかなりハードルが高い部分はありますが、旅にシンパシーを感じる方は、是非とも覚悟を決めて手に取ってもらいたい一冊です。