飛び立つ季節/沢木耕太郎

 

 

 『深夜特急』で知られる沢木耕太郎さんの日本国内の紀行文である『旅のつばくろ』の続編です。

 

 前作の出版が2022年4月ということで、コロナ禍突入直後の出版で、実際の執筆時期はコロナ禍の影もない頃だったということで、全くそういう言及はなかったのですが、こちらはコロナ禍で外出も憚られる時期を経てのことで、気が向いたら好きなところに出かけられる自由についてあとがきでは言及されてはいるものの、それぞれのパートの執筆の時期は明確ではなく、通常運転の旅となっています。

 

 とはいいながら、これまでの紀行文と趣が異なるのが、『深夜特急』でアジアで足踏みはしたもののインド以降ひたすら西へ西へと向かったことでも知られるように、個人的には前のめりな印象のある沢木さんが、過去の旅をなぞるようなカタチの旅が主要なモチーフになっているのが印象的です。

 

 特に、初めての旅だとこれまでの著書の中でも再三紹介されている16歳の時の東北旅行の旅程に沿った旅を何度もされていると共に、文豪に倣って新田次郎文学賞を受賞した『一瞬の夏』の執筆のために自らを缶詰にした旅館を再訪したり、お父さまの出身地である両国を訪ねたりと、沢木さんらしくないとも思える回顧録的な旅行が目立ちますが、だからといって沢木さんも歳を取ったもんだ、という印象はあまりなくて、単なる題材のひとつにすぎないのかな、という気もしますが、コロナ禍明けの旅行は、そういうセンチメンタル・ジャーニー的なモノを勧められているような気もします。

 

 このシリーズ、まだ続くようですので、今後も楽しみにしたいところです。